株式会社オチマーケティングオフィス 


<128>百貨店業界の再生に向けて


ここ数カ月大手百貨店の中間決算発表があり、百貨店業態そのものが苦戦している企業と、その他の事業が悪化している企業がまだら模様ですが、相対的にインバウンドの崩壊で、首都圏は苦戦し、地方・郊外等はインバウンドとは関係なく、単店ベースの赤字経営により閉店ラッシュに追い込まれています。
果たして、本当にベストを尽くしての結果なのでしょうか?

初めに
百貨店は自ら商品知識を持っている人が自ら選ぶか、接客を受けてサポートして貰う事以外には、商品知識を持っていない人にとっては、自ら選ぶとコーディネイト音痴の様になってしまう売場構築なのです。
その商品のバリューを価格以上に表現できる環境の整備と什器の開発とVMD力を加え、お客様の期待以上の接客・サービスを実践する事が欠けているのです。
百貨店は販売員の一人当たりの売上が下がっても、後方要員を教育し直して店頭に配置し、機会ロスを減らすべきなのです。リストラでもしなければ社内のどこかで人件費を負担しているのですから、、、

百貨店のやらねばならない事
1.ローカライズとカスタマイズが必要不可欠
各社・各店は自助努力されていると思いますが、それでも低迷しているのは、いままでの考え方や発想では自社・自店の再生が難しくなっているのです。何が原因で低迷しているのかの把握が大きくずれてきているのに気が付いていないのです。少しずつの変化の連続なので、茹蛙状態なのです。

2.モノ提案でなくコト提案への転換
何が原因と考えますと、いままで不要な(無くても困らないが、あると満足できる)商品を売ってきていた業態なのに、売上が苦戦してきた時に、「スーツはどこですか?」の様に声をあげるお客様の顕在需要向けの売場を構築し、潜在需要よりも顕在需要を意識した目的買いの売場を大きくしたことによるのです。
本当は「セレブレイトスーツはどこですか?」であって、それ向けのコト編集売場や潜在需要を喚起できる提案売場を構築すべきなのです。

3.テイスト軸の売場構築
カテゴリー・アイテム展開売場が多くでき、過去はそれをむき出しにしても売上が取れたのでしたが、現在のお客様はむき出しではNGで、周りをコトというオブラートに包んだ売場が必要になってきているのです。
アイテム展開売場は、例えばファッションで言えば、靴売り場でトラッドの靴を買い、スーツ売場でモードのスーツを買ってしまえば、最悪のコーディネイトになってしまうのです。
ユナイテッドアローズやビームス、無印良品等はテイスト軸のショップブランド展開のためその中でお客様が自らセレクトしても、色の組み合わせ趣味を除いてのテイストが揃うのです。

4.本当の顧客満足の認識
百貨店には行く日を決めており、家族やペアや井戸端会議メンバーでの買い物を楽しみたくて、何を購入するかを決めずに、ほとんどの方が行くのです。お店で何か良い提案があれば購入し、無ければ手ぶらで帰られるのです。
お店で良い提案のコートがあり、期待値以上の満足度の高い接客サービスを受け、自宅には似たような商品を沢山お持ちなのに、見た目よりもリーズナブルと感じる商品を購入されて、自分を満足感で納得させて帰られるのです。

今後の百貨店の方向性
1.高い目標の設定
この様な状況の中、百貨店業界としては6兆円強に落ちてきていますが、9兆円強まで戻すことは不可能なのかと考えますと、当面近いところまでは可能なのです。
各店がまずは過去の売上のピーク時まで戻す目標を持つ事が必要なのです。過去のピーク時はその時の自店のお客様のニーズに合った商品や売場構築、接客・サービスで対応していたのです。
現在の自店顧客のニーズに合わせた商品構成や売場構築、接客・サービスができていないのが実態なのです。

2.顧客満足の徹底追及
その時代は経済環境や消費税率が違う等は何ら関係ないのです。そういった百貨店は自力ではなく、追い風だから売上が取れ、向かい風だから売上が低迷している(天候要因を含め)といった他力な経営であり、自力の経営ができていないのでしょう。
よって、各店の現在のお客様のニーズに合わせられれば、各店の最低でもピーク時までの売上に戻せるのです。倒産企業や閉店店舗があるので、丸ごとは戻せないにしても8.5兆円位までは十分可能であると考えます。

3.目標完遂への強い意志
このようなお話を百貨店マンにすると「無謀です」とのコメントが返ってくることもあるのですが、出来ないと思えばそこで止まるか下がってしまいます。
自らがやる気を出し、知恵と力を出し、不足部分を上司、部下、外部の力を借りてでも実行に向けてのアクションをして頂きたいものです。
まだまだ不可能ではありません。百貨店のお客様は減少していなく、買うモノや買うコトが提案されていないから売上が低下してきているのです。

4.目標完遂への施策(価値の創造)
商品供給もローカライズしたその地域fでお金を払って頂くお客様の潜在需要を掘り起こし、その店にしかないカスタマイズした商品の開発も必要です。
それに加え、テイスト軸で売場を編集して、売場そのものをお気に入り(嫌いなものがない)になって頂き、その商品のバリューを価格以上に表現できる環境の整備と什器の開発とVMD力を加え、お客様の期待以上の接客・サービスを実践する事が必要不可欠なのです。

5.儲かるビジネスモデルの構築
当然売上のみに目が向いても企業の存続はありえません。営業利益を確保する事が最優先課題なのです。
ロードサイドの紳士服専門店のTOP2社はファッションのみの営業利益を8%以上確保しており、顧客層の違いはあるのですが、百貨店の紳士服ターゲット層に営業利益8%を確保できるビジネスモデルが出来ていない事に問題があるのです。

6.売上よりも利益が重要
百貨店でいうと伊勢丹新宿本店は64000平米強で年間約2700億円強を確保しているのですが、他の都心型百貨店は90000平米前後ある店でも1000億円前後の売上しかない店もあります。
伊勢丹新宿本店は如何に商品展開を絞り込み、高単価品を売る力を付け、回転を高めて消化率を上げ、売上・利益の確保に向かっているのかは一目瞭然です。
売上面は三越伊勢丹ですが、利益面では大丸札幌店のローコストオペレーションによる高営業利益率の確保の術を持った大丸松坂屋百貨店もレベルの高い経営なのです。

7.利益率確保への道程
百貨店は買取比率が低く、委託・消化のビジネスに依存していますので、完全買取以外の発注量に対する意識は低いのです。よって、特に衣料品は、委託・消化取引では建値消化率が50%に満たない状況なのです。
百貨店は買取比率の向上をゴールとして、当面自主販売、自主編集を通過点とし、現在の場所貸し売場とのバランスを、自社の力で出来る領域から、変化させて行くべきなのです。勿論試行錯誤はつきものですが、挑戦しないで「座して死を待つ」事こそ無謀なのです。

8.当面の百貨店のやるべき施策
百貨店は自店マーケティングを徹底し、その店の販売実力に合わせた投入量を設定すべきなのです。自社PBなら商品が他より良いので売上が取れるとか、接客実力があるから売り切れるとかを考えないで、前年並みしか売れないと設定すべきです。
前年より消化率を10%UPした投入量に設定し、最低前年並みを売れば消化率が上がるし、売上が伸びれば消化率はもっと上がるのです。その程度で店頭在庫がなくならないのです。
要は自ら売っていなく、置いて買って頂いているのです。

9.そのためのマーケティングと実行
返品出来うるビジネスモデルからの早期の脱却が必要不可欠です。買取は在庫の残が怖いからと逃げないで、研究しながらTRY&ERRORで検証して実践に移して頂きたいものです。
結果が判っている事に手を出すのは無謀ですが、やらないと判らない事もあるのです。
そのためにも、最初に自社の顧客データの的確な解析が必要です。取れているデータ部分のみでも解析し、適した仮説でのTRYから始め、それからPDCAの徹底実行です。
小売業は最終的に、PB化に向かわざるを得ないのです。

最後に
売場以外にはヒントとマネーが落ちていないのですから、常に現場でヒントや気付きを見つける知力と、それを拾う体力を身につける事が企業を維持向上させていく重要なファクターなのです。マーケットはブルーオーシャンなのですから、マーケティング力とマーチャンダイジング力、それをお客様にお伝えするプロモーション力、そしてマネージメント力のバランスの良い構築が必要です。

現状を的確に把握し、その欠陥に手を入れて改善していかないと取り残されるのです。経営者は企業の理想をしっかり持ち、現実を的確に把握し、その差を直線で埋める施策をスピード感覚を持って、実行することが必要不可欠な時代と思われます。
健全なる企業経営に早急に改善・改革できる事を祈念致します。

2017.02.27
株式会社 オチマーケティングオフィス  生地 雅之


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