株式会社オチマーケティングオフィス 


<76>福袋の功罪

政権交代を皮切りに、経済回復への模索が漸く始められようとしています。
しかしながら、先は消費税増税といういばらの道があり、そう簡単には行きそうもない現状です。
各企業は現状からの脱却を求めてはいますが、現実手を付けられているのはほんの一握りの企業に過ぎないのです。

何故かと言えば、大半の企業の経営者達は実は現状にそう切羽詰まった危機感がなく、過去の成功体験にしがみつき、不景気という台風が過ぎ去っていくのを待っているのです。
しかし、一部の企業の経営者達は、現状を踏まえて先々を予測し、経営の舵取りを難しくても、信念を持って挑戦して行こうとされています。

今回からファッションのシーズンMDを切り口について、四季MDを提言してみようと思います。

小売業の年明けは福袋イベントからスタートします。
福袋は、仕掛けによってはとてつもない売上をつくり出すものです。それだけに、前年の秋口から準備に神経をすり減らすものです。売上も、各店の年始売り上げの大半を占める状況になってきており、お客様にとっての品ぞろえ(福袋の中身)が年々良くなってきています。
その一方、作り出す側の苦労は大変なもので、年末のテレビ番組で特番になるほどの注目度です。プランタン銀座の「福袋」製作場面などは、そのアイデアの豊富さと製作の苦労などが判ります。

このプランタン銀座の福袋には他店にはない仕掛けがありました。毎年社員がアイデアを出し、プランニングから社員が絡み、過去にはエリア特有のファッションで話題を集める名古屋のヤングレディスにターゲットを当て、「名古屋嬢」をテーマにウエアの福袋を仕掛けました。これが、テレビの福袋特集にも取り上げられ、特にその年はオープン前々日の大晦日夕方から、福袋目当てのお客が店と映画館のある1ブロックの1周のみでなく、3ブロック分まで約7800名が取り巻き、開店後あっと言う間に完売状態になった時期もありました。

一般の百貨店の福袋の消化も毎年順調です。それは前年の消化数から判断して、仕入れを調整したものの結果でもあります。
百貨店の福袋は2種類あり、1つは各売場の仕入先の持込ブランド名入りの袋に入った福袋で、もう1つは各仕入先から仕入れた商品を売場で組み立てて店名入りの袋に入れた福袋です。

この2種の福袋については、明暗がくっきり出ています。老舗の百貨店でも65歳以上のハッピーリタイア族はまだ多少、店のアイデンティティーと商品のアイデンティティーを同じと解釈しています。しかし、それ以下の世代は店のアイデンティティーと商品のアイデンティティーを同一視していない人がほとんどです。そのため、ブランド名入りの袋に入った福袋の完売時間が圧倒的に早くなっています。その一方、店名入りの福袋が初日の夕方になっても残っているのが現実です。

いかに、店名のブランド力と商品のブランド力のバランスを図るかが重要なのです。
福袋も単に出しているだけでは売れなくなってきています。そうした状況であっても、なかには中身が透けて見える袋を、店頭に並べる店まであります。
福袋には通常商品の5倍の上代の商品が入っており、例えば、5万円の正価の商品を1万円で販売しているのです。

百貨店は、およそ売価の75〜90%位で仕入れ、これをお得な価格で販売して、多少なりとも粗利益を出してはいますが、納入先は元上代の15〜18%で投入し、「お客さまのニーズに対応する」というバイヤーの要望に応えるために、赤字を出しながら協力体制を組んでいるのです。
仕入先もキャリー商品の在庫処分と合わせて、商品在庫がないときなどは廉価の現物購入商品で対応し、赤字を減少させようとしている現状もあります。

ではお客の現状はどうでしょうか。お客は服が4〜5枚入っている福袋の中を見ながら買って帰りますが、心情としては「2枚程度自分の着られるものが入っていれば良い」といった程度の認識で、残りは親、兄弟、知人らに贈呈する感覚。かつてほどの期待感はなくなりつつあります。
本当にこれで良いのでしょうか?

衣料品売場の活性化に向けて、是非とも顧客ニーズにフィットできる商品提案を望むものです。
実践はやってみないと判らない事もあるのですが、やる前に判断できる事は事前に抑えておくべきです。是非とも健全なる売場構築に早急に改革できる事を祈念致します。

2013.01.31
株式会社 オチマーケティングオフィス  生地 雅之

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