株式会社オチマーケティングオフィス 


<74>GMSのモノづくり

リーマンショック以後、低迷していました景気も一昨年秋より、徐々に消費者の買い控えも脇が緩み出してきました。
しかし、昨年3月の東日本大震災に一度元に戻りかけましたが、昨年4月以降夏の後半まで、順調に継続していました。その後はまた、低迷です。

これは消費者の節約モードに飽きがきて、購買意欲が高まっていたのであり、一巡した昨秋以降からはまた、節約モードに戻りつつあります。
この1年前の震災時にはGMSも必需品の供給不足と流通事情の悪化により、取り立てて芳しくなく、その後食品を中心に漸く復活しつつあります。

1.GMSの衣料品売場の現状
現在のGMSの衣料品売場は、大半が安い物を大量に並べているのみです。
本部で考えるシーズンMDやテーマMDが不在の状況となっていますが、これは、バイヤーが、百貨店と同じように、自店の顧客の動きと商品の動きを、把握しにくい環境に置かれているからなのです。例えばこの店で、「いつ」「誰が」「どの場所で」「何を」「どんな目的で」「どのように」「どのくらいの枚数を」「いくらで」購入しているのかを把握できていないのです。POSデータの結果に終始しており、この環境で大半のバイヤーはバイイングをしているのです。
百貨店の一部では「お客さまの声」を集めて、不足アイテムの調達に邁進するところも増えつつあります。GMSとしては不足アイテムの補充は必要ですが、単品の補充のみで良いのでしょうか。お客は物だけを欲して売り場に来ているのでしょうか。

2.コトの為のモノ売場
例えば、「参観日に行くためのスーツが欲しい」といったように、「コト需要を満たすためのモノを提案する売場」の構築が課題になっているのではないでしょうか。
「お客さまの声に基づき、商品化しました」と商品開発して、その商品を掲載した小冊子を作っている百貨店もあります。評価されるべき取り組みですが、気にかかるのはその中身は全顧客に向けた回答書になっていることで、メインターゲット顧客の満足に対応できていないのに、ミクロのお客様の不満足に対応しましたと言ったような事に終始しているのは問題と思われます。
これからは、お客をターゲットごとにくくり、フレッシャーならフレッシャー、団塊世代なら団塊世代など、細分化した顧客ターゲットに向けた、別個の回答書を準備すべきでしょう。これにより、ターゲットごとのブランディングにつながるものなのです。

3.消費者ニーズは量より質
GMSはと言うと売場を見る限り、そのレベルに達していないのです。不況で消費者が高付加価値中価格商品を購入できない状況下で、お客さまの感覚が「この程度で我慢しようか」と購入しているにもかかわらず、少品種低価格商品の多量生産によるコスト削減、中抜き仕入れを重用し、売上拡大の方向に向けて邁進しているのです。
しかし、半値にして2倍の数量を売ろうとしても、消費者は消耗品(必需品)を、必要量以上に購入することはあり得ません。しかし、付加価値のついた商品(必欲品)は、消費者が「あれもこれも欲しい」と際限がないのです。
また、価格面では、カテゴリーキラーやディスカウントストアに圧倒されている状況です。これからは、付加価値の付いたリーズナブルな衣料品のMD構築をすることがなくては、利益を確保できにくい環境となるでしょう。そのため、GMSの衣料品売り場は、テーマ別・ブランド別にリーズナブルな商品を、編集した平場の構築が必要なのです。よって自店顧客をマーケティングして、自店のスタンスと顧客とのギャップを確認して、埋めていく作業が重要になってくるのです。

4.適正な仕入数量とは?
消費者の購買履歴から今後の購買予測をすることも重要ですが、これからはそれをベースに、何をどう提案していくかが課題であり、提案なき売場に前進はないのです。衣料品売場の現状は、企業によって異なりますが、改善が必要な売り場が多いのです。
例えば、ジャケットの売場に、前週まで展開していたブルゾン・ジャンパーの吊り看板が、週の立ち上がりを3日も過ぎても掛け替えられていないといったケースを見受けられることもあります。こうしたことは、MDを語る以前に、企業意識改革をする必要があるのです。
また、本部バイヤーの仕入れの仕方にも問題はあります。発注に対する引取の悪さは、一部で問題になっているのです。
表向きは買取条件でありながら、店頭の売上が不振なために、立ち上がり分以外は引き取らないといったやり方や、大型センターに納入させ、そこから各店に出荷して初めて、そのGMSに売り上げが発生する仕組みなど、改善すべき点は多々あるのです。
これらの問題は、自店に対する消費動向や販売数量を予測する洞察力不足が原因なのです。その実態は、バイヤーが洞察力を身につける環境に置かれていないからなのです。そのため、売場の商品が切れないように、多めの発注をしてしまうのです。

5.「アレもコレも」から「アレでなくコレを」
商品の売れ行きは、そのブランドの知名度に依る部分が大きいので、まずそのブランドを企業全体で、セールスプロモーションを行う必要があるのです。
しかし、それ以前に大切なのは、ターゲットの絞り込みなのです。今は「アレもコレも」を望む時代でなく、「アレでなくコレを」を望む時代であり、ターゲットを絞れば絞るほど消費者の求めている「コレ」が見えてくるのです。
「このような生活をしている、このような感性のお客さまに、この商品を、このようなシーンで着てもらいたい」との思いがVP、商品、販売員の接客で表現できれば問題ないのです。
「事は簡単」なのに、みんなで難しく考えてしまっているのです。
大きな売場を担当し、仕入れ量も額も増大し、目が「質」から「量」に奪われているのでしょう。

6.テイスト・ゾーニングの必要性
これからは、わずか10坪程度を1つのテイストでくくり、いろんなテイストの売場を集積し、1つのエリアを構築する必要があるのです。当然のことながら、そのエリアにも大きなくくりのテイストは必要ですが、このような10坪のテイスト売場の仕入れを多数提案し、各テイストの必要な店舗に応じた奥行きの生産量をつくることが重要なのです。
消費者は同じテイストの商品を大量に見せられても、購買意欲が湧かないのです。1000枚あっても同じタイプの商品なら、1枚しか買わないし、自分に不向きなら1枚も買わないのです。逆に、10枚しかなくても、欲しい商品なら2〜3枚でも買うのです。こうした複数の購買を促すために必要なのが、コーディネート提案なのです。
もちろん、店舗毎に顧客分析を実施することは言うまでもありません。そのうえで、テイスト売場を構築するのですが、そのテーマの顧客が不在の店には、自社全店に金太郎飴にしないで、別のテイストの売場を展開する必要もあります。
このような方法なら、ある程度のテーマのグループピングができるので、商品の統一化もでき、生産ロットもクリアできやすいのです。
各テーマのグループピングは地域でくくるのではなく、各店の顧客分析に基づいて判断すべきであり、市場規模の大小は品番のセレクトに影響させないで、量の奥行きで調整することが望ましいのです。

これにより、これからのGMSの衣料品売場は活性化するのです。
一つひとつの売場にスピリット(魂)を入れないで、完成度の高い売場構築ができる筈がないのです。その上で、パート社員の販売のレベルアップを追及するのです。パート社員は、教育すれば十分に期待以上の答えを出してくれます。

実践はやってみないと判らない事もあるのですが、やる前に判断できる事は事前に抑えておくべきです。是非とも健全なる売場構築に早急に改革できる事を祈念致します。

2012.10.29
株式会社 オチマーケティングオフィス  生地 雅之

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