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<73>作り手・売り手から買い手・使い手への視点の移動
リーマンショック以後、低迷していました景気も一昨年秋より、徐々に消費者の買い控えも脇が緩み出してきました。
しかし、昨年3月の東日本大震災に一度元に戻りかけましたが、昨年4月以降夏の後半まで、順調に継続していました。その後はまた、低迷です。
これは消費者の節約モードに飽きがきて、購買意欲が高まっていたのであり、一巡した昨秋秋以降からはまた、節約モードに戻りつつあります。
この1年前の震災時には通信販売も必需品の供給不足と流通事情の悪化により、取り立てて芳しくなく、昨年末より漸く復活しつつあります。
1.作り手・売り手からの視点の脱却
現在のメンズ業界は、明かりの見えない不透明な環境にあり、頑張った分の光明も見えてこない状況が続いています。それは、今までのメンズ業界が「こうあるべき」「こうしないと駄目」などと、型にはまった考え方から脱却できずに、混迷を続けている部分に負うところが多いのです。もっとフラットに考えてみれば、見えてくるものがあるのではないでしょうか。
メンズ業界に身をおく人々は、「作り手」「売り手」ですが、実は「買い手」「使い手」でもあります。しかし、「作り手」「売り手」という視点から脱却できていないのです。
自分で着て見よう、自分で使って見ようということです。どうも着心地が悪い、しっくりこない、肌触りが良くない、サイズが合わない、自分で買った商品なら我慢しないはずなのです。ところが、自分が作って、売っているとどうも甘くなるのです。このくらいは許容範囲ではないのか、このサイズに合う人のほうが多いのではと思いがちで、「何とか着られる」などといった妥協が多いのが現実ではないでしょうか。
「買い手」「使い手」の満足が「作り手」「売り手」の満足であるべきであり、ここに始めて購買が生まれるのです。この当たり前のようなことがなかなか実践できていないのです。
2.顧客満足とは?
アパレルも小売業もマスコミも、顧客満足度の向上を唱えて数十年を過ぎていますが、はたしてどの程度の進歩を遂げたのでしょうか。利益3分節(顧客に満足という利益を、アパレル、小売業に利益を)を唱えて、30年が過ぎています。いまだに完遂できていない永遠の課題なのです。
では、3年後はどうなっているのでしょうか。
業態・業種の垣根は既に取り払われ、ボーダーレス化が深耕する中で、総花的な広がりではなく、各カテゴリーの中でのニッチトップ化、要はプロフェッショナル化も進み、中途半端なものは淘汰されているでしょう。また、プロ化した業態をマルチコントロールできる企業が取り込み、グローバル化していることは間違いないでしょう。問題はそこから先なのです。
基本は顧客密着度であり、どれだけ一人ひとり顧客の顔が見えているかが重要なのです。一人ひとりの顧客=個客に対する個の対応(パーソナルマーケティング)を塊の対応(マスマーチャンダイジング)に転換させる機能の構築が必要なのです。
世の中は多品種中量生産による販売時代に突入していますが、現実は多品種少量生産による販売で、アパレルも小売業も苦しんでいます。多品種中量生産による販売時代の中で1アパレル、1小売業としては、いかに少品種中量生産による販売を実践できるかが当面のポイントになっているのです。それを実現するためには、プロ化が必要であり、他社と差別化された「特異性」をもつことが重要なのです。
3.買い手・使い手への視点の移動
要は、自分が「買い手」「使い手」になり、顧客の目で「作り方」「見せ方」「売り方」を見直し、厳しくオペレーション(5RIGHTS+2VMD)を一元管理する必要があるのです。アパレルも小売業も、スタートラインは顧客であり、「買い手」「使い手」=「作り手」「売り手」の認識が不可欠なのです。
メンズ業界はこうあるべきでなく、自分ならこういう服を、こういうように着たいというスタンスを大事にしていくべきでしょう。
また、あるショッピングセンターに入っている有名なカジュアルチェーン店で、店員が寄ってきてダンガリーのボタンダウンシャツを「これはオックスフォードのボタンダウンシャツです」と説明していました。POPにはわざわざ「ダンガリーのBD」と書いてあり、見たら分かることを、わざわざPOPで説明するのもどうかと思いますが、それをまた間違って説明しているのですから、もはやサービスとは言えません。
こうした状況はささいなことのように感じられますが、顧客にとっては店の良し悪しを判断する一つの基準にもなっています。各企業とも徹底する必要があるでしょう。
例えば、セールストークにしても、「このチノパンは綿100%なので、洗うと少し縮んでしまいます。洗ってから裾上げされるか、多少長めに裾上げしておく事をお勧めします」「デニムのシャツは色落ちしますから、単独で2〜3回水洗いしてください」「もし、他のシャツなどに色が移れば、それぞれ単独で水洗いすると落ちることが多いですよ」など、目に見えない商品のメリットやデメリットを説明されるとお客は心地良く購入するのです。
カリスマ店員がいる店(つまりその店員さんが着ているから購入するといった傾向の店)では、このような教育は不要かもわからないのですが、メンズ業界の場合、年配の女性が購入する頻度も高い。どのお客に対しても基本は同じなのです。
4.お客は、業界人よりもずっと賢い
お客様のほとんどは接客や陳列などについて、改善点を指摘してくれない。コメントできる知識がないからであり、なんとなく買いにくい店や嫌な店と感じ、次から来なくなるのです。もし、何も買わないで帰るお客様がいたら、追いかけて聞いてみる位の姿勢が必要なのです。
「なぜ何も買わなかったのですか」と問えば、「欲しい物がなかった」「店員の対応が不満だった」など、さまざまな角度からの問題点が浮き彫りにされてきます。
例えば、ドレスシャツ売場で、ポリ袋に入ったまま襟の形を見せているだけの商品レイアウトが見られるなど、まだまだ問題点はあります。全体が見えない商品や素材が触れない状態の陳列なども改善が必要なのです。要は課題が多いということは、改善すれば良くなると言うことです。
実践はやってみないと判らない事もあるのですが、やる前に判断できる事は事前に抑えておくべきです。是非とも健全なる売場構築に早急に改革できる事を祈念致します。
2012.09.25
株式会社 オチマーケティングオフィス 生地 雅之
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