株式会社オチマーケティングオフィス 


<61>百貨店業態改革−1

リーマンショック以降低迷を続けていました百貨店売上が少しずつ底打ちし、浮上しつつあります。しかし、GMS衣料品売上は低迷を続けています。またこの震災の影響で一時低迷していましたが、4月以降消費が戻りつつあり、リーマンショックからの脱却が昨秋より1年を過ぎ、一巡した9月から再度低下傾向にあります。
この時期にこそ自店の在り方を根本的に見直す良いチャンスなのです。
そこで今回、百貨店業態が今後、安定基調に戻るためにクリアすべき課題を衣料品売場中心に掘り下げてみます。

リーマンショックという台風が過ぎ去り震災復興の後は、従来のマーケティング&マーチャンダイジング手法では生き残りません。オールORナッシングと言っているのではなく、理想を研究し設定しそれを掲げて、現状分析しそれを把握した上で、既存の良い部分はより精度を向上させ、悪い部分は思い切って改善するといった事が必要な時期なのです。「計画は慎重に緻密に!実行は大胆に迅速に!」が必須です。

1.基本は売場
小売業ビジネスは売場がないと始まりません。カタログ通販は紙面が売場で、ウェブサイトは画面が売場です。自店に来店されているお客様の把握は過去のREPORT(既存顧客と次世代顧客獲得の重要性)にも記載していますので省きますが、お客様が来店されていただく売場に大きな問題点が隠されているのです。

まず自社で管理運営できる商品MDの把握が重要です。特に衣料品平場と言われるアイテム編集売場の中は同質化した商品の山であり、いくら販売員が少ないと言っても、1週間で1枚も売れていないSKUに2枚も店頭在庫が必要なのでしょうか?
このような無駄を徹底して省くと現在のアイテム編集平場の面積は半分以下に集約できるものと思います。

アイテム編集売場は、必需品、目的買いの売場であり、「ドレスシャツをください」「ソックスをください」と言うような指名買いの顕在需要対応型売場です。この必需品購買のみで衣料品売場を構築するのなら、現在の半分以下で十分賄えるのですが、それでは衣料品売上や利益が縮小していく事はやむを得ないのです。

本来ファッション事業は必欲品目的の売上を構築するものであり、この部分の売場が半分以上占有させないと「あの店に行けば、何か良いものがあるかな?」と思っていただくお客様の来店が望めないのです。この必欲品売場の構築、つまり潜在需要対応型売場がテイスト編集売場であり、短絡的ではNBコーナーの導入であり、自主で構築しようとすれば自主編集売場またはPBコーナーなのです。

お客様はアイテム指名買いであればブランドは記号であり、どのブランドでも大差ないので、白のドレスシャツなら3枚見せても、5枚見せても1枚しか買っていただけないので、迷う程の商品の幅出しは不要なのです。出来る限り重ね打ちすれば店頭在庫効率やフォロー率、消化率も上がり、結果として返品額の削減に繋り、メーカーが安定するために上代も下がりやすいのです。

必欲品売場については、PBコーナーを中心とし、来季のファッション傾向に基づき、シーズンテーマを設定し、それに沿った企画をラインアップし、ブランドの実績と来季のアイテムバランスを想定しながら、商品仕入計画を立案するべきです。この場合にバイヤーは来季のアイテム別売上構成や平均上代、展開時期等に仮説を立て、前年度との違いを明確に立案し、プロモーションまで意識した仕入から店頭までのオペレーションを構築する事が必要なのです。

ほとんどのバイヤーがこの仮説が立てられなく、実績主義から脱却できていないのです。要は定番的に売れている実績のある商品さえ押さえていれば、仕事をしている感覚に陥っていると言っても過言ではないでしょう。来季何がどの位売れるのかの仮説を立て、たまたま前年と同じ商品があればそれが結果としての定番という認識を持つべきで、前年に何本売れたスラックスだから今年も何本仕入れると言う発想からの脱却が求められているのです。

そしてNBの有効利用が次の手なのです。PBのテイストのみでは、お客様の幅広いニーズは満足させられませんが、PBでそのテイストをすべて包含するとブランドの顔が定まらず、ブランドの崩壊に繋がります。
要はブランドとは売筋の商品に、同じネームを付けただけでは駄目なのです。

そのNBのターゲットがPBと異なり、同じテイストでもエイジの異なるお客様向けであったり、まったくテイストの違うブランドであったり、自ブランドの固定客を多く保有しており、安定した売上を見込める事が条件で、基本は来季いくら売れるかがポイントです。

まず各フロアに来店されているお客様の分析ができれば商品MDの見直し、売場の展開・提案方法の見直しをする方が楽に売上が見込めるのです。

2.売場と本部の役割
本部は来季のファッション傾向と昨年の実績を把握し、来季に必要なメニューを店側に提示し、お店の衣料品担当マネージャーが一番自店のお客様を見ている訳ですから、そのメニューの中から自店の面積に応じて、自店の一番必要なメニューから選ぶ事から始めるべきです。

アイテム平場はその店に応じての大きさに縮小し、PBやNBを各15Tとすると本部はメニューを例えば6つ提案し、店側はそのコーナーを面積に割戻し、3つしか入らないなら自店に適した3つを選ぶのです。それを各店がセレクトし、結果全店共通展開のブランドがセントラルバイイングと呼ぶべきものなのです。その後本部は店の力量に合わせた販売予算を設定しての発注をすべきなのです。

また、店サイドは売場運営について変化対応力を備えなければなりません。食品売場であれば、日々刻々と何を前面に出して展開していくか日常的に行われています。現在でもコンビニでは雨が降りだしたらビニール傘を入口に出しています。衣料品も過去は急に雪が降りだしたら前面にコートを出したり、夏でも昨日より急に気温が高くなれば半袖シャツを前面に並べたものでしたが、現在はそのような変化対応力がなくなっています。

このような変化対応力は常に現場にいる人が本部からや店長からの指示待ちになっており、権限委譲をしていないので、仮説も立てられなければ検証もできなくなっているのです。
ファッションも生ものですが、生鮮食品のように、本日中に食べていただかないと腐ってしまうものではなく、3か月、6か月先での値下げ処分でよいと思っているので、判断が鈍っているのです。

今後はもっと現場に権限を与え、失敗しても考えて仕事をしていただくようにすべきで、失敗しない人が成長しないものです。「企業は人」ですので、社員全体のモチベーションが向上しない限り、企業全体の士気や意識改革が望めないのです。経営者が「なかなか思うように社員が行動しない」と考えているのは、自らが招いているといっても過言ではないのです。

また、テナント形式の場所貸しビジネスは、百貨店のショップブランドのリレーションならそう大きな問題には見えないのですが、全くフロア丸ごと賃借契約をしているような展開は、自主MDの力量が小さいので、そこまで面倒見切れるノウハウがないという事を認めているのです。

まずは「現状の商品や売場に売れない」という不満をいう前に、現状でのベストを尽くしましょう。既存の売場で、既存の商品で、既存の販売員で、什器レイアウトと商品レイアウトとVPを変更することにより、お客様に見やすく買い易い売場が再現でき、当然、既存前年比は難なく達成できるのです。

現状のベストを尽くしながら、本来の自店ターゲットを再確認しそれを分析し、本部に自店顧客に向けて時代に即した商品開発やバイイングが出来ているかを求めるのです。その為には自店マーケティングが必須で、本部は仮説を立てられるバイヤーの育成が、店は変化対応可能なマネージャーの育成が急務です。

売場の将来はバイヤーの組み立てるMD如何と、現場においての展開ブランドや商品を日々の変化に対応できるかによって、店の売上の拡大縮小が余儀なくされるのです。

3.最後に
要は、自店の顧客マーケティングに不備があるのです。徹底した顧客マーケティングにより、自店既存顧客に自店が何を提案してくべきなのかを模索する必要があるのです。
来店されているお客様の顔とライフスタイルが見えれば、次はお客様が「何を提案して欲しいのか?」の把握よりも、お客様に「何を提案すべきなのか?」が重要です。

お客様は何を提案して欲しいのかが明確に認識出来ていないのです。それに仮説を立てて、潜在需要を顕在化する的確な提案商品のラインナップと、それを必要とする顧客ターゲットへの的確なアプローチが必須条件なのです。そして、その情報を流すチャネルの見直しが欠けているものと考えます。

「困っていない」と言われる人もあるでしょうが、困って無ければ売上不振にはなりません。
その人達は「困っていることに気が付いていない」のです。怪我をして血が流れ出しているのに、痛くないと言っているのです。今一度自店・自分を厳しく現状分析されるべきです。出来ていると考えた瞬間から自店・自分の成長は止まっているのです。

また本部のMDやバイヤー、店長や販売員は、自分が欲しい商品はどの様に探しているのでしょうか?自分が正価で購入というお客様になる事において、商品情報の流し方や売場表現の不備が認識できるのです。その時に初めて「お客様目線」が身に付くのです。

特に経営判断についてはスピード感がなく、即断即決が不可能に見えます。理由は決定権者に現場感覚がなく、自分で判断できる知識、経験を持ち合わせていない事が挙げられます。このような状態が続くと投資会社の経営感覚になってきます。「世の中が右に行くから、我々も行く」や、「他に成功事例がないから判断できない、やれない」といった回答が示しています。
要は「みんなが渡れば怖くない」状態で、自分の目での舵取りが出来ていないと思われます。

今後は「顧客視点での課題(商品と価格のバランス)発見、プロの技での改革」が必要です。
是非とも健全な店頭売上に向けて、百貨店業態の早急な再構築を祈念致します。

2011.09.27
株式会社 オチマーケティングオフィス  生地 雅之

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