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<57>アパレルの民事再生
リーマンショック以降低迷が続いていました小売業にも大きな変化が見えてきました。元気に伸びていますFBやアウトレット、安定期に入ったSC、少し復調気味の百貨店、苦戦続きのGMSと明暗が分かれつつあります。
小売業やアパレルは時代の変化に適応しながら、お客様の望む物を提案し続けなければなりません。勿論顕在需要のみではなく、潜在需要の掘り起こしも重要な課題です。
ここ数年アパレルの優劣は勝敗に転じ、挑戦して安定しだしている企業と、低迷企業の2極化に分かれてきています。特に昨今、民事再生法に掛けられる企業もでてきています。
過去にも数社となく、会社更生法や民事再生法に掛けられた企業は後を絶えませんが、アパレルの企業再生は至難の業です。
苦しい企業が会社更生法や民事再生法に掛ける前に、大手アパレルが傘下に収める吸収方法や、商社が資本援助する方法や、異業種が傘下に収める方法、ファンドが入ってくる方法等がありますが、その場合は負の遺産も抱えたままの統合劇になります。
大手アパレルの傘下に入る場合には、経営部分は親会社が手を入れ、実行部隊は親会社の実践のプロが送られてくるケースが多く、立ち直りやすいのです。課題は傘下に収めた後の経営改革ですが、吸収した会社の風土まで親会社に合わせされるケースも多く、味が失われて形だけを復活している形骸化した会社も見受けられます。
商社が資本援助する形の場合も同様で、アパレル経営のプロを投入してくるケースが多く、安定再生できるのですが、ブランド育成やマーケット開拓等は不得手であり、膿出しと在庫処分等の効率経営までこぎつけるのがやっとの状態です。
異業種による買収劇にしても、アパレル経営には素人が多く、自社事業の採算を押しつけている場合も多く、アパレルを理解して、その環境に合わせての再生手法を取っているようには見受けられません。
特に問題なのはファンドであり、企業買収をしてからアパレル経験者のチームを作り、送り込んできているケースが多いのです。アパレル経験チームといっても、アパレル企業を知り尽くして業務改革や改善、ブランドリメイク、市場開拓等を実践してきたプロではなく、商品プロデュースを少し携わったことがあるとか、企業デザイナーであったりする程度や、理論のみのマーケティングのプロであったりの混成チームなのです。彼らが1社でも立て直した会社があるのでしょうか?また、その会社のブランドが今も輝き続けているのでしょうか?甚だ疑問です。
小売店頭やアパレルの現場を熟知しており、それを他に伝えてビジネスフレームを大きくするために、後付け理論を勉強し、説得、納得させるための道具とした実践経験豊富なリーダーが必要で、初めに再生ヴィジョンを作り、それに適合したメンバーを集めて、実行に移す事が重要です。これができるのもファンドなのです。
ファンド再生のトップのコメントも新聞紙上等で拝見しますが、まずは自社マーケットの分析、把握が部下の受け売りであり、全く正しく把握しているとは思えません。そのトップの経営方針で再生していくのですから、船が山に登るのは自明の理と言えます。経営数値管理と企業の方向性とは重ねなければなりませんが、両方できるプロは少ないのです。
企業再生の基本は、利益確保が最優先です。そのためには、まず既存事業の再生です。既存事業がいくらシュリンクしていても、売上が小さくても利益が出る仕組みを構築しなおすことです。それが出来て初めて新しい事業開拓に目を向けるべきなのです。既存事業の立て直しが出来ないまま、逃げ出すように新しいマーケットに向かうのは全くと言ってよいほど成功しません。一番熟知している既存事業の課題を発見し、プロの技で改革する事が最優先です。
また、企業のすべてを否定しての改革はほとんど成功しません。どの企業も良い点と悪い点の両方を持ち、悪貨が良貨を駆逐するので、苦しくなっているのです。よって、良い点は残し、悪い点を改革、改善する事が重要で、それを見抜く力量が必要なのです。
また、新マーケットとして中国市場への参入も取りざたされていますが、日本人の心を掴む事が出来ていない企業に中国人の心を把握したマーケティングが出来るとは思えないのです。
お客様心理やニーズは各々の生まれた環境、育った環境により異なります。特に中国人は欧米人と同様に狩猟民族と言われており、見た目は日本人に近く農耕民族と同様に見受けられますが、ビジネスライク(損得を重視した)な民族とも言われています。いままでの国内事業がファジーな取引形態で脇が甘い取引に甘んじていた経営者が、我も我もとアジア進出ですべてが成功しているとも思えません。既存事業に再度目を向け、足元を固めてからの積み上げを期待するものです。
まとめ
要は、アパレルも素晴らしいグッズブランドを保持しているのですから、各々の店の地域顧客に密着させれば凄いパワーを発揮できる業態であり、如何に顧客にお伝えできるのかを問われているのです。
「お客様目線で商品と売場の課題を発見し、プロの技での改革」が必要です。
是非とも健全な顧客満足度の向上になるように、アパレルの経営力を早急に再構築できる事を祈念致します。
2011.05.31
株式会社 オチマーケティングオフィス 生地 雅之
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