株式会社オチマーケティングオフィス 


<38>低価格競争と業界の行方

昨年後半のリーマンショックの後の景気の大幅悪化傾向に伴い、ファストファッション
小売業の台頭、ユニクロやGMSの単品追求型価格破壊商品による混乱が、本来の
ファッションビジネスの行方を見謝らせている原因を作っていると思われます。
小売業の百貨店、GMS、専門店やそれに追随しているアパレル、商社がこの難局を乗り
越えるのに本当に方針や施策が妥当と言えるのでしょうか?

1.GMS880円JEANS
8月14日発売のイオンのトップバリュ880円JEANSを当日購入してきました。
MENSについては、綿85%ポリエステル15%の混紡。
シルエットはレギュラーとリラックスの2種類。
加工はNAVY(1WASH)とBLUE(STONE-WASH)の2種類。
ウェストは従来の3cmピッチで、73cm〜97cmの9サイズ。
股下が66cm〜85cmの3cmピッチでの7サイズ。
サイズ・バリエーションは豊富です。
GUに比べてアダルト向けのシルエットであり、LEVISの702に似ています。
素材は一般的ですが、GUよりもSOFTな仕上がりで、NON-AGE対応です。
GUのような軽さはありませんが、デニムでTCとはNAVY-SLACKSとの位置付けです。

LADYSについては、綿81%ポリエステル17%ポリウレタン2%とストレッチ素材です。
シルエットは膝までフィット感のあるスリムラインで、ブーツカットです。
ジャスコ(エイジが)高いお客様が多い)らしく、股上は多少深いものです。
加工はMENS同様ですが、ストレッチの分だけ、目が詰まっているように見えます。
ウェストは61cm〜76cmの3cmピッチの6サイズ。
股下は72cmと76cmの2種類しかなく、いくらブーツカットとは言え、
短い方が72cmとはすべて裾上げし直しが発生すると予測されます。
メンズの126通りに比べ、レディスは24通りしかなく、レディスは力が入っていない
のではと映ります。
その後のLADYSの追加分では股下を短くオーダーしたとの事です。

MENS&LADYSともGUよりはグレード感がありますが、本来のJEANS-MAKERの
シルエットや素材、加工の研究には及びも付きませんが、消耗品の感覚消費では
ありうる商品です。
但し、今後研究を加えれば、完成度も増すものと推測されます。

イオンの半期100万本の販売予測は、メンズで40万本、レディスで60万本と設定した
として、メンズの展開予定店では1日4.6本平均、レディスの展開予定店では
1日7.2本を販売しなければならず、かなりHARDな数字と思われます。
既に1ヶ月くらいで24万本消化したとのコメントが発表されていますが、このような商品は
立ち上がりに購入され、履き心地を試して、良ければリピータになり、悪ければ
タンス在庫になっていくのです。リピータでも、次の購入は次シーズンの立ち上がりでは
ないでしょうか?
よって、今季の可能な販売本数を推測すると、メンズで30万本、レディスで30万本
(値引販売含む)であり、特にレディスについては、裾上加工を期中より無料にすると
消化がもっと向上するものと予測されます。

また、売場の構成も売ろうとしているようには見えません。
例えばイオン越谷レイクタウンSCのイオンスタイルなどは、店の入口の通路前面に
入店しようとする客に「入るな!」と言っているようなワゴン列で封鎖し、
それに散らかっている880円ジーンズを積み上げています。
(その後はそのワゴンはヒートファクトの値引き販売に変わっていました)
店内と言えば、売場内通路に向けた棚什器に綺麗に積まれています。
一番目につく入口でこのようにチープに見せられたら、880円でも高く感じられます。
まして、イオンスタイルの入口が季節の変化を表現しにくいアクセサリーや
雑貨の売場であり、季節の変化が表現できる衣料品売場が中にあるのは、
SCのメイン通路から見て、毎回来店されても、変化が見えにくく、ほとんど素通りされて
いるのです。もったいないレイアウトです。

2.低価格商品の行方
日本はいままで年収200万以下が26%程度しかいないと言われており、その上の
国民総中産階級意識が強く、百貨店の売上はその人たちで維持していたと言っても
過言ではありませんでした。
しかし、昨秋のリーマンショック、派遣切り、正社員切りなどを皮切りに失業者も
5.7%になり、徐々にアメリカや中国のような2極化に少しずつではありますが、
変化してきています。
そのタイミングに価格破壊が外資を伴って、うねりが起きてきているのです。
過去はロードサイドの紳士服の価格破壊がなされ、SUITの平均売価は約22500円です。
しかし、その後GMSのA社の1万円SUIT(最近7800円)、B社の8000円SUIT、C社の
7900円SUIT(最近セールで5000円)が出ても、ロードサイドの牙城はほとんどと言って
崩れていません。
同様な事はユニクロのJEANSに象徴されており、MENSこそ知名度NO.1はLEVISですが、
実際の購買本数はユニクロであり、LADYSに至っては1昨年より、知名度も購入本数も
ユニクロがNO.1です。
いくらジーユーが990円JEANSやGMS-A社の880円JEANSが出ても、そう簡単に
ユニクロの牙城を崩せません。
よって、ファストファッションの日本への乱入は、この間隙を縫っているもので、
低所得者が文字も読めず、書く事も出来ない人間が多い国ではなく、
日本はレベルの高い消費者であり、「安く悪く遣い捨て」のトレンドは時期がくれば
揺り戻しがあるものと思います。移り気な日本人ですから。
但し、外資の企業規模は日本に比べグローバル性が高く、調達機能も生半可でないので気を緩めずに、
計画生産によるコスト低下を目論見て、脇を締めた対応が望まれます。

3.SUITの行方
よく業界新聞に「内需の50%が国産であるべき」と記載されていますが、なにも国産50%
である必要は全くありません。
5RIGHT(適正な商品を、適正な価格で、適正な場所に、適正な時期に、適正な数量を)
であれば、結果国産でも海外生産でも問題ではないと思います。
如何にお客様のニーズに合うかどうかがすべてです。
生産サイドの改革から販売の仕組みまでの改革は当然必要です。

また、これからのSUITは上下SET売りからの脱却が望まれます。
上着の体系にボトムのサイズが組み合わされての販売はお客様に対しての押し付け
販売の何ものでもありません。
今後はコンポーネントスーツ(上下別売)が台頭してくる日も近いと思います。
小職は既に「SUITが消える日が来る」と提言しており、組下をお客様に押し付けるSUIT
ではなく、コンポーネント=組み立てる(上下自分のサイズで組み合わせられる)
SUIT(実質SET-UP)が通常になってくると提言しています。(SUITを着るシーンが
なくなると言っているのではありません)
また、実需品としてのSUITの修理加工に日数を要している百貨店やGMSは、専門店が
即渡しを実施している現状から掛け離れて行く事になります。
既に裾上げでさえ、1週間や3〜5日掛かる店は敬遠され、その場で1〜2時間で対応
できる店に人気が集中しているのです。
逆に百貨店では、PM(パターンメイド)どころかCM(カスタムメイド)にまで広がり、
伊勢丹では素材のオーダー(14mから)から対応できる仕組みを構築していて、
本当にこだわりのあるオーダーの方に対応してきます。
「衣類には着る人の人格を演出する」とありますが、その通りです。
しかし、安売りの商品を着れば人格を損なっていると言う事には当たらないのです。
良い物が安く手に入る事はお客様にとってこの上ない顧客満足の向上なのです。
我々がOUTLETに行く事と同じです。「安かろう悪かろう」が一番ダメなのです。
ユニクロの品質が価格を上回っているから、現在のトレンドの中で、勝組みなのです。
お客様にとって、必需アイテムは価格勝負であり、必欲アイテムなら適正価格が通ると
言う事なのです。

4.百貨店の行方
現在はバブルの絶頂期の反対の時期であり、ラグジュアリーが全盛期であったように
低価格トレンドが全盛期です。
栄枯盛衰ですので、また逆転現象は起こるものと思います。
既に1昨年度には東京の中心の3区(千代田区、港区、中央区)のビル・住宅関係の
建築投資はバブル時代の額をクリアし、昨年には東京23区の総額がバブル時代を
クリアすると言われています。
このことは個人消費はまだまだですが、リーマンショックまでは企業が復活に
向かっていたのです。
FASHONは個人消費に影響するものであり、良い時は一番後に影響され、悪い時は
一番先に影響を受けています。
百貨店は一番上の価格を見せながら、中間層の囲い込みをすべきで、そのランクが
1ランク下がったのみであり、ユニクロのような低価格マーケットまでをターゲットにすべき
ではなく、中間層に必要な必欲品の商品構成に対し、対応不足なのです。
そういう意味(1ランク下げる事でさえ遅れている)では時代に即応出来ていないのです。
いまからでも遅くはないと思いますが、自店の顧客対するマーケティングの不備が
原因でPOS-DATAを取っても、それを顧客目線で活かしきれていないのです。
DATAを読み取る力量を養う事が最優先です。
百貨店アパレルが船を逃げ出す鼠の様ですが当然の事で、将来が見えない
チャネルから早期に脱出しないと自らも沈没するといった憂き目に会うのです。
これは百貨店アパレルのみが悪いのではなく、百貨店そのものに魅力がなく、美味しい
マーケットに映っていない現れです。
これからの百貨店は特に人事制度と人材育成が課題で、永年勤続されていても時代の
変化に対応できない人は残念ですが現場から退場していただくべきですが、
時代の変化を読み取り、新機軸を提案でき、実行しようとされている人(年齢ではなく)を
もっと登用して、活性化を図るべきです。
特に本部に力を集中させ、現場から考える力を奪った販仕分離が一番の罪悪でしょう。
自ら考え、自ら仕入れ、自ら売り切る事が出来ない小売業こそ淘汰されるべきでしょう。
セントラルバイイングとM&Aや統合の良い部分を、悪い部分が駆逐しているのです。
「本来あるべきセントラルバイイング」とは、本部は各店に対し、メニュー提示であり、
それを各店が必要な商材を本部に依頼し、本部はその店に応じた仕入れ金額を設定し、
全店として集約しての発注をするべきなのです。
小売業の各店舗は地域で商売しているのであるから、個店対応でローカライズされ
なければ生きては行けません。特に百貨店はその最たるものでしょう。
ローカライズさせる上において、統合やM&Aやセントラルバイイングを有効に利用するの
ですが、しかし、統合やM&A、セントラルバイイングありきではありません。
小売業は現場力が必須条件であり、その強化による小売業の活性化を願っています。

是非とも健全なる企業経営体制に早急に改革できる事を祈念致します。

2009.11.16
株式会社 オチマーケティングオフィス  生地 雅之



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