株式会社オチマーケティングオフィス 


<31>百貨店の売場リニューアル論

百貨店のリニューアルが失敗し続けています。また、リニューアルしてもその効果が
3か月程度続く程度で、投資効果に対するリターンが全くと言って良いほどありません。
売場リニューアルの根本的思想部分に大きなズレがあるように見受けられます。
売上不振であるからといって、リニューアルすれば右上がりになるといった感覚が
前提になっており、不要なリニューアルや自店顧客ターゲットと大きく遊離した
リニューアルが多々見られます。
そこで今回、「百貨店の衣料品売場のリニューアル」について掘り下げてみます。

1.自店顧客ターゲット分析
まずは、商圏におけるマーケティングが必要ですが、そのデータのどこに自店の顧客が
いるのか、その顧客が今後どのようなライフスタイルをしようとしているのかの分析が
出来ていないのです。
まずは、既存の顧客にベストな提案をする事が前提であり、これらの自店の来店して
いただいている顧客に今後こうあって欲しいという提案を研究し、継続提案していくことが
必須条件です。
その次に、自店に来店されていない顧客がどこにいて、どのようなライフスタイルで生活
しているのかを分析し、彼らを取り込むにはどのような提案が必要なのかを仮説を
立てて、実行し、検証していくのですが、既存の顧客を大前提として研究すべきです。
既存顧客が維持できないので、新規顧客に目が向いているなら、このリニューアルは
ほとんど成功しないと言っても過言ではないでしょう。

2.衣料品売場の在り方
前号でも記載しましたが、百貨店の衣料品売場は、3つに大別されます。
一つはショップであり、ラグジュアリーブランドや、キャラクターブランド等、各ブランドが
把握して提案している今シーズンのファッショントレンドを打ち出しているのであり、どこの
百貨店に行っても同じブランドであれば、同じ表現になっています。
二つ目は、平場のブランド・コーナーであり、各ブランドの提案を表現しながら、
自店顧客にあった品揃えや奥行きを実行していくのです。
最後の一つは単品平場であり、その時の旬な商品をバイヤーの裁量で如何様にも
チョイス・変更可能な売り場の構成です。
構成バランスを変更させ、なおかつ自店に適したブランドとそうでないブランドの
スクラップ・アンド・ビルドを推進させるべきなのです。
その上で、ファッション傾向と自店顧客実態との整合性を加味しながら、商品内容の
確認、その後設定予算と投入予定商品の奥行きやバランスをチェックしていくのです。
この積上で、自店の顧客視点に基づいたブランド構成や商品構成も可能となるのです。

3.リニューアル後の手直し
現在の百貨店のリニューアルを見てみると、自店の100%負担、仕入先100%負担、
仕入先との分担と大別されます。
問題はリニューアル後に発生しているのです。
いくら仮説を繰り返しても、なかなか思った通りにお客様は動いてくれないものです。
ベストな仮説は最低条件ですが、それでも予測が狂った場合に、3ヶ月後などに
その修正を行い、売上の回復に向けるのです。
ところが会社や仕入先はなかなかその経費を捻出できないために、下降線を辿った
ままとなるのです。
そこで、重要な手直し経費の確保なのです。この埋蔵金をどう捻出するかが課題です。
過去の百貨店リニューアルを見ても、3か月以内にリニューアルの予測ブレを検証し、
修正を掛けた店は売上がV字回復、良化しているのです。
自店顧客ターゲットの分析、把握が出来ていないので、総花的なMDのリニューアルに
依存している状態なのです。つまり、商圏と自店のマーケティング・データがあっても、
分析し、次の提案が出来ていないのです。
要は、自店の顧客マーケティングに不備があるのです。
徹底した顧客マーケティングにより、自店顧客のニーズと現在の提案ブランドや商品との
ギャップを認識し、自店顧客に合ったブランドや商品を開発し、提案できる売場を
構築していくのです。
自店の顧客には「こう在って欲しい」と理想を掲げ、その後に現状認識をして、その
ギャップに対し、どのルート、方法でそれに向けて進めていくかを決めるべきでしょう。
また、リニューアル責任者は自ら自店で、定価で、自分着用の商品を購入しましょう。
その時に初めて顧客目線が出来るのです。
「顧客視点での課題(売場・商品)発見、プロの目線での売場改革」が必須です。

4.コスト0のリニューアル
本当にリニューアルは必要なのでしょうか?
現場(売場)では本当に現在与えられた環境でベストを尽くしているのでしょうか?
ショップ、コーナー、平場において、自店顧客に提案したい商品があるのでしょうか?
無ければ仕入先との交渉で入れ替えをしてでも、自店顧客に提案したい商品を
展開すべきでしょう。
また、その適品が売場にあったとしても、自店顧客に欲しいと思っていただけるVPに
なっているのでしょうか?
VPが適度に表現されていても、その周辺商品とのバランスは適しているのでしょうか?
提案商品を始め、必要な商品の色・サイズに欠品はないのでしょうか?
商品に欠品がなくても、パイプハンギング商品や棚上商品がマニュアル通りの色順に
並んでおり、お客様が立ち止まって商品を手に取ってくれているのでしょうか?
また、什器やフェイスアウトやマネキン、ボディ等の高さが高すぎて、お客様に圧迫感を
与えていないでしょうか?
売れていないので、商品を出しすぎて、什器と什器の間隔が狭すぎて、お客様が
中導線に入れないようになっていないのでしょうか?逆に広すぎて、隣の什器の間隔が
間が抜けていないのでしょうか?
暇な状態が続き、販売員が静止していて、お客様が入りにくく感じていないでしょうか?
商品が散らかっており、お客様が触りたくない状態で放置されていないのでしょうか?
販売員は売上が悪いからと言って、しかめっ面になっていないでしょうか?
上司が販売員に売場の指摘を、お客様がいるのに大声で注意していないでしょうか?
売場の掃除ができていなく、特に棚の最下段の商品などが埃塗れではないでしょうか?
この様な当たり前の事が当たり前の様に出来ていない売場にはリニューアルなどは
全く不要であり、現場が与えられた売場でベストを尽くしていて、売上が低迷している
からこそ経営者もリニューアル経費を捻出してくれるのです。
現場でベストを尽くせていない売場にリニューアル投資しても、完成後もベストを
尽くさず、溝にお金を捨てているのです。
そのような売場に、経営者はリニューアル経費を出すべきではないのです。

5.今後のリニューアルの方向性
要は、与えられた現場でベストを尽くしているのか?
ベストを尽くしていて売上が低迷しているなら、売場環境やショップ・リレーションに
不備があり、不要なブランド、ショップが多く、必要なブランド、ショップが
少ないのであって、リニューアルすべきです。
そこからマーケティング・データを徹底分析して、リニューアルを実施すべきです。
リニューアル後の予測の打撃率を高めるのは当然ですが、それでも外れるものです。
その後の手直しの経費をプールしておき、手直しして初めてリニューアルが完成すると
考える事が重要です。

これからのマーケットの推移を予測しながら、まずは「自店の顧客視点によるコスト0の
リニューアルの徹底」が、必要な時代に突入しています。

2009.03.28
株式会社 オチマーケティングオフィス  生地 雅之



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