株式会社オチマーケティングオフィス 


<19>衣料品の上代

百貨店、GMSの衣料品売上が苦戦し続けています。
これは経営者の頭の中に、天気、景気、人気の三気にすべての要因を見つけようとして
いるように見える事もありますが、決してそうではありません。
百貨店やGMSの経営者が自社売場の価格方針を明確に持っていない事や、持ってい
ても社内に開示、徹底できていない事も重要なポイントです。
そこで今回、衣料品の価格について掘り下げてみます。

1.現在の百貨店の価格設定
現在の百貨店は大半、委託や消化条件によるアパレルへの場所貸しビジネスに等しい
状態です。よって、価格の主導権は在庫リスクのあるアパレルが握っているのです。
それであれば、経営層が自店の顧客ターゲットを絞り、それをバイヤーに説明し、
バイヤーはそれに沿ったブランドをセレクトして導入していくべきです。
しかし、トップダウンで持ち込まれるブランドも多く、持ち込む経営層自体が自店の顧客
ニーズを的確に把握しているとは思えない事もあります。
当然、店は進化し続けていくのですから、チャレンジも当然必要ですが、何をもってこの
ブランドが必要なのかをバイヤーに説明し納得させて、あとはバイヤーにそのブランドの
品揃えや納期等は一任すべきでしょう。
その時には価格MDも充分に検討しておく必要があります。
また、上記を精一杯こなしていない事もあり、現在も店頭売上は苦戦中です。
よって、アパレルは建値消化率を低く設定し、セール販売比率を高めに設定して、自社
の利益を乗せた価格に設定しています。
如何に不合理な価格設定である事は否めません。
このような対応を打破するためには、バイヤーは自店顧客ターゲットのライフスタイル分
析と顧客のニーズ把握を徹底して実施し、それに向けたブランドのセレクトとそのブランド
の商材に見極めを行い、価格、発注量を含めて、消化率の整合性をアパレルと決めて、
バイイングに入るべきでしょう。
現実、百貨店1社のみでは、そのアパレルブランドの価格変更までは影響力もないので、
四面楚歌状態に陥っているのです。

2.現在のGMSの価格設定
現在のGMSの価格設定は、「この商品をこの価格で売りたい」と言うバイヤーの思いが
まず表現されています。
しかし、価格から入ると仕入先からの提案はチープなものしか出てきません。
仕入先はGMSの上代設定に対する仕入率を把握していますから、当然それに見合った
素材やデザイン、縫製仕様の商品しか提案してきていません。
この中から商品をセレクトする事は結果として、付加価値のないお客様のニーズを満た
さない商品になる事は否めません。
本来は自店のお客様に提案したい商材(素材、色、デザイン、仕様等)を設定し、それに
見合う提案先に仕入価格の交渉を実施すべきです。
しかし、全くと言って良い程、実行されていないのです。
このままでは、GMSの衣料品売場も、そこに納入している仕入先も、消滅してしまうのは
明白です。
これを回避するには、先ほど記述の様に、自店顧客のニーズを把握し、来シーズンにど
の様なライフスタイルを提案すべきかを研究し、そのライフスタイルにどの様な商品が必
要不可欠なのかを設定して、商品開発に入らなければなりません。
まずは、バイヤーは店頭を廻り、お客様を見る事が一番重要で、そこが出来ていれば、
後の作業は簡単です。現状はバイヤーが店頭を見ないで、机の上で前年実績データを
見ながら、前年踏襲型のバイイングに埋没しているのです。
これでは、GMS衣料品売場の未来はありません。

3.商品アイテムと価格のバランスの把握
現在のスーツの価格と同ブランド、売場におけるシャツやスラックスやタイとの価格バラ
ンスも悪すぎます。
カテゴリーの一部のアイテムが価格破壊され、衣料品ではスーツは大幅に安くなってき
ていますが、他のアイテムでは価格破壊ができていない状況もあります。
例えば、GMSで10000円のスーツがメインで展開されているならば、ジャケット5000円、
スラックス3000円、シャツ1000円の商品がスタンダードとして並んで欲しいものですが、
コンスタントにプロパーでは展開されてはいません。セールになってからバランスが取れ
るものもあります。
この価格のバランスの悪さは、売場環境との連動も理由の一つです。
例えば、GMSで39000円のジャケットが柱巻で展開され、その隣に7900円のジャケット
が平場で展開されていると、全くと言って39000円のジャケットが売れる筈もないのです。
百貨店の売場環境であれば39000円のジャケットは問題なく売れるのに、GMSの平場で
は高く感じられているのです。
GMSで高額品を売るには、少なくともブランド・ショップに見える工夫が必要不可欠です。

4.自店顧客スタンダード(商品と価格のバランス)の把握
要は、自店の顧客マーケティングに不備があるのです。
徹底した顧客マーケティングにより、自店顧客への提案商品と価格とのギャップを認識し、
自店顧客に合った価格設定をしていくのです。
お客様目線を持つと、多様なニーズが明確に分類されてくるのです。
「これは高くても買う」=必欲品
「これは安くないと買わない/安ければ買う」=必需品
「これは安くても買わない」=不要品
と言うスタンスを見極める事が重要です。
前年売上が最悪の状況であった小売業では、前年実績を白紙状態に戻して、自店の
顧客には「この商品をこの価格で購入して欲しい」と理想を掲げ、その後に前年実績を
認識して、そのギャップに対し、どのルート、方法でそれに向けて進めていくかを決める
べきでしょう。
また、自分が自店で、定価で、自分着用の商品を購入しましょう。
その時に初めて顧客目線が出来るのです。
「顧客視点での課題(商品と価格のバランス)発見、プロの目線での改革」が必須です。

是非とも健全なる店頭売上になるように、衣料品の価格MDを早急に再構築できる事を
祈念致します。

2008.04.01

株式会社 オチマーケティングオフィス  生地 雅之

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