株式会社オチマーケティングオフィス 


<17>アパレルの経営改革B環境悪化下での経営指針

昨年後半の景気の大幅悪化傾向に伴い、大手アパレル企業の方針が本業回帰に
向かっている事が、中期経営計画の発表や経営者の年始のコメントを見ても十分に
図り知られます。
しかし、それは一部の企業にのみ言える事であり、大半の中堅アパレル企業は息も
絶え絶えの状態から、逸早く抜け出そうと新規事業に目を向け、既存事業の悪化
部分を補おうと渾身の力を振り絞っているように見えますが、本当に方針や施策が
妥当と言えるのでしょうか?


1.アパレル企業の経営指数の在り方
景気は悪化の一途を辿り、そう簡単に回復基調に戻りそうにありません。
また、この様な環境の中で、他力依存型経営では企業は持つ筈もないのです。
要は、どのような環境の中でも、業績が安定する経営を運営するシステム構築が
重要であり、まずはそれに向けて邁進する事が前提です。
つまり、本業の環境が悪化してきているから、新規事業に目を向けるのではなく、
本業の建て直しが最優先課題です。
本業での利益が確保出来ないで、新規事業を育成できる筈もないのです。
本業の利益率を、悪くても10%以上確保し、それ以上積み上げた部分で新規事業へ
参入を前提とする位の考え方を持ち、参入する場合でも、徹底した顧客マーケティングが
必要です。
例えば、中国マーケットへの小売り事業の参入等は、まだまだ中国人の考え方や趣味、
嗜好、行動体系などの分析が不備としか言いようがありません。
大きいマーケットがあるのは事実ですが、それに対しての地元の顧客のニーズや
購買心理の分析はまだまだと言えます。
日本でも、フランスのカルフール等が撤退していったりしているのです。
我々はそんな事はやらないと考えているのは、単なる驕りとしか映っていない事を
理解すべきでしょう。
本業においては、自分の得意のチャネルが全体の95%に減少したから、自分の会社も
売上が95%になっても仕方ないと言った考え方に甘んじているとしか見受けられません。
今は「みんなで渡れば怖い」時代なのです。
要は、マーケットが95%減少しても、自社の売上は100%確保する施策が重要です。
当然そう簡単ではありませんが、企業TOPがこの様な強い意志を持たないでTOPに
座っている事は、その企業の株主や従業員にとっても不幸な事でしょう。
しかし、環境自体が悪化している中で、新規事業に対する無謀な積極策は取るべき
ではありません。既存事業に目を向け、そこに積極施策を取り込みましょう。
堅実経営の磐石な基盤作りに邁進する時期と考えましょう。

2.アパレル企業の企画生産・営業面の在り方
例えば、売上予算を前年の95%に設定し、それで最低前年並みの営業利益を生む
仕組みを設定します。不可能と考えると改革はそこでストップしてしまいます。
それに店頭の消化率を前年より5%向上させ、最終在庫率を前年より3%良化させる
図式を徹底し、前年並みの売上が確保できたら、結果としてそれ以上の消化率、在庫率
が向上するのです。
その為には、来年度の売上に必要な商材(品番数、デザイン、色、サイズ、仕様等)の
奥行きを想定し、現状企画の見直しと前年在庫の使用できるものを当て込み、総生産
スケールを設定する必要があります。
少ない商材であれば、営業は売れる店に商品を投入し、売れない店には投入しません。
店や営業は自分の担当店を売れるようにしようと知恵が出てきます。
そして、品番数が減少する事により1品番当りの生産量が増加し、原料や工賃等の
コストが高騰する環境の中、抑制できる部分も生まれてきます。
当然、品番数の減少は、物流効率、経理の伝票も効率化してきます。
その商品で利益の出るプロパー商戦を戦い、その残(ある程度の利益を計算できる)と
前年在庫の不要品の処分で作る売上(利益はほとんど出ないか赤字でも処分)の合計
で来期の売上予算が設定されるのは当然ですが、プロパー販売の利益が最終の営業
利益と考え、この利益の向上に向けて、もの作りの在り方を見直す事が重要です。
売上を多く望むと、結果として不採算店の撤退が出来ずに赤字店舗の改革の手が緩む
のです。よって、利益を多く望む経営計画、指数設定をする事が重要です。
また、商材を多く生産する事により、品番数が多くなり、1品番毎の企画の精度が低下し
てきているのです。


3.ブランド・マーケティングの検証
要は、顧客のマーケティングに不備があるのです。
徹底した顧客マーケティングにより、自ブランドと自店顧客のニーズのギャップを認識し、
ブランドに顧客を合わせるのか、顧客にブランドを合わせるのかの方針を決めて、
社内外に徹底したブランドリニューアルか、ブランドに合う売場を構築し直すかを説明し、
攻めのブランド戦略を取る事が必要です。
前年が最悪の状況であった企業では、最初に企業ヴィジョンありきで、「こう在りたい」
と理想を掲げ、その後に現状認識をして、そのギャップに対し、どのルート、方法で
それに向けて進めていくかを決めるべきでしょう。

4.経営ヴィジョンの構築
まず、経営層にこの会社をどうしたいのかと言ったヴィジョンが明確でない事が、
主たる原因です。
経営層はそれ位の事は判っていると思っている人が多いのですが、実行に移せて
始めて判っていると言う表現が妥当なのです。
社員に厳しく注文を付け、自分で出来ない事をやらせる経営層も多く、これでは経営
改革は夢のまた夢です。理論と実践を両輪にしての方策を現場に納得させて、社員を
動かせる仕組みを構築する事が必要不可欠です。
これからのアパレル経営はヴィジョンと現実の把握、そのギャップを縮める方策、
迅速な実行、検証の繰り返しに尽きます。
判っていてもできていないのは、判っていないのです。
経営層自らが自分を律し、率先垂範できるような体制作りが早急に求められています。
社員は上を見て仕事をする事は当然であり、経営層自らリードしていく燃える集団作りが
今後、望まれています。

是非とも健全なる黒字体制に早急に改革できる事を祈念致します。

2008.02.04

株式会社 オチマーケティングオフィス  生地 雅之



Copyright@2010 Ochi Marketing Office.All Rights Reserved.