株式会社オチマーケティングオフィス 


<69>百貨店の経営判断

リーマンショック以後、低迷していました景気も一昨年秋より、徐々に消費者の買い控えも脇が緩み出してきました。しかし、昨年3月の東日本大震災に一度元に戻りかけましたが、昨年4月以降夏の後半まで、順調に継続していました。その後はまた、低迷です。
これは消費者の節約モードに飽きがきて、購買意欲が高まっていたのであり、一巡したこの秋以降からはまた、節約モードに戻りつつあります。

この1年間、百貨店も取り立てて店頭に向けての大掛かりな消費喚起の仕掛けをしていたのではないので、再び不況に陥るのは自明の理なのです。
各百貨店はコストカット(人員削減、支店閉鎖、支店の業態変更、仕入率低減等)により、売上は低迷してもなんとか経常利益を良化させてきているのです。

1.百貨店の経営方針の在り方
景気はまだまだ低迷し、そう簡単に回復基調に戻りそうにありません。また、この様な環境の中で、他力依存型経営では企業は持つ筈もないのです。要は、どのような環境の中でも、業績が安定する経営を運営するシステム構築が重要であり、まずはそれに向けて邁進する事が前提です。つまり、本業の環境が悪化してきているから、新規事業に目を向けるのではなく、本業の建て直しが最優先課題です。本業での利益が確保出来ないで、新規事業を育成できる筈もないのです。本業の利益率を、悪くても10%以上確保し、それ以上積み上げた部分で新規事業へ参入を前提とする位の考え方を持ち、参入する場合でも、徹底した顧客マーケティングが必要です。

本業においては、百貨店全体の売上が全体の95%に減少したから、自分の会社も売上が95%になっても仕方ないと言った考え方に甘んじているとしか見受けられません。今は「みんなで渡れば怖い」時代なのです。
要は、マーケットが95%に減少しても、自社の売上は100%以上確保する施策が重要です。当然そう簡単ではありませんが、企業TOPがこの様な強い意志を持たないでTOPに座っている事は、その企業の株主や従業員にとっても不幸な事でしょう。
しかし、環境自体が悪化している中で、新規事業に対する無謀な積極策は取るべきではありません。既存事業に目を向け、そこに積極施策を取り込みましょう。堅実経営の磐石な基盤作りに邁進する時期と考えましょう。

2.百貨店の既存事業のリメイク
百貨店業界も不振状態が続いていましたので、新規事業はそう展開していなかったのですが、最近はコストカット等で減収増益に転換しだしており、大手百貨店を中心に新事業の開発・展開が起きつつあります。しかし、今迄の新事業の失敗による原因追究をしないで、余裕が出来つつあるから攻めようとのニュアンスが窺えます。
まずは、マーケティングを徹底実施し、このターゲットにはこのライフスタイルを提案しようと設定し、そのターゲットに売場を位置付けての展開にすべきです。
そのような事は当然やっていますとのお答えが返ってきますが、的確なマーケティングが出来ていれば、既存事業はもっと安定し、過去の新事業も成功している筈です。

要は、顧客のマーケティングに不備があるのです。
徹底した自店顧客マーケティングにより、自店顧客のニーズのギャップを認識し、売場に顧客を合わせるのか、顧客に売場を合わせるのかの方針を決めて、社内外に徹底した売場リニューアルか、顧客に合う売場を構築し直すかを説明し、攻めのブランド戦略を取る事が必要です。小売業では後者が主流ですが、一部には前者も必要不可欠です。
前年が最悪の状況であった企業では、最初に企業ヴィジョンありきで、「こう在りたい」と理想を掲げ、その後に現状認識をして、そのギャップに対し、どのルート、方法でそれに向けて進めていくかを決めるべきでしょう。

3.百貨店の次世代対応戦略
百貨店は一般的に顧客が高齢化していると言われていますが、それは次世代を意識しないでここまで来た経営戦略に問題があるのです。これはアパレルのブランド戦略とも似ており、ブランドデビューした時はニュー30’Sを狙ったブランドが顧客とともに、今や50歳代が中心となっているブランドが多いのです。このアパレルのブランドの推移や方向性を見てみると、小売業の顧客戦略の参考になってきます。アパレルのブランドはノンエイジ化していると安定しているように見受けられ、このブランドはノンエイジ対応可能と表現している事も多いのですが、現実はノンエイジという言葉はまやかしで、1つのブランドや商品群では全くあり得ないのです。

ブランドを作る時には、コンセプトを設定し、このようなエイジのこのような環境で生活している人に来て貰いたいとの仮説ベースを明確にしてから、そのライフスタイルに沿った商品開発に入るのですが、そのトレンドの位置付けを確定しなければ企画は成り立ちません。このようなコンセプトで作られた商品は狙った顧客に対してぴったりと構成出来た場合、その商品を着る人はその狙い通りの顧客、または少しエイジの高いトレンドセッターであり、逆に少しエイジの低いコンサバティブな顧客なのです。エイジだけ見れば幅広くノンエイジに見えますが、現在のマーケットでは、エイジの高低によりサイズが2種必要になっているのです。

一部の百貨店では紳士服でも自主編集売場をチャレンジしており、試行錯誤の中ではありますが、一歩踏み出しつつあります。踏み出さなければ失敗も成功もありません。トライして失敗し、失敗の原因追究をして修正を掛けて精度を向上させていくのです。一歩も踏み込めない百貨店が多い中、トライしている事は評価できます。但し、踏み出すまでに徹底したマーケティングを行い、分別を持った進行が必要で、むやみやたらと突進すべきではないのですが、、

あとは自分でできる事と出来ない事を早期に見極め、出来ない事は外部の力を借りてでも早期に仕上げる事が重要です。自分達の勉強している間に世の中はもっと早く進んでいるのです。相手はお客様なのです。自店に来店されるお客様に評価されなければ自店の今後はありません。外部に頼りながら自分も研鑚を積みながら、いつか自店で運営できるレベルまで自分達の能力を引き上げていく事が望まれています。

4.経営層の戦略判断
今まで百貨店業界は、「実績がありません」、「他社に成功事例がないので出来ません」、「自店のお客様の望むものと違います」、「上司の了解が取れません」等のネガティブな考え方が多く、誰もが前年実績以上の事を検討したり、提案したりしていなかったのです。一歩踏み出せば世の中が変わるのです。やってみようと思わなければ、1%もできないのですが、やろうと思えば可能性が出てきます。まして、自店の顧客のカード履歴を把握しているから大丈夫的な感覚で、本当の自店顧客のマーケティングと分析ができているかとても不安です。

また、百貨店は現場肌の経営者が少なく、中々判断が付きにくいので、実行が遅いどころか判断しない事が多いのです。まずは自分の裁量で進められるところはどんどん進めていくべきでしょう。極端にいえば、相談するから過去の経験値で注文が付くのです。成功する可能性を感じたなら、自分の責任で進める位の気概が必要です。勿論結果報告は必要ですが、、、
コンプライアンスに問題なければ失敗しても首になった人はいませんし、左遷もまれでしょう。命までは取られません。

現場を精通している現場を育てる事が基本ですが、育った現場にフレームのある裁量権を委ね、現場に怪我(失敗)をさせて育てるのです。失敗しないで昇進、昇格して来る人がいる企業程怖い企業はないのです。百貨店経営者も現場も、是非とも一歩踏み出していただきたいものです。そうしないと百貨店業界の未来はありません。

5.経営ヴィジョンの構築
まず、経営層にこの企業をどうしたいのかと言ったヴィジョンが明確でない事が、主たる原因です。経営層はそれ位の事は判っていると思っている人が多いのですが、実行に移せて始めて判っていると言う表現が妥当なのです。

自分でほとんど現場の仕事まで介在する経営層も多く、これでは経営改革は夢のまた夢です。理論と実践を両輪にしての方策を現場に納得させて、社員を動かせる仕組みを構築する事が必要不可欠です。
経営者は現場20%、経営80%の仕事バランスを保ち、1週間の寒さ、暑さの売上のみに一喜一憂しているようでは、先が思いやられます。もう少し、後ろに下がってマーケットや自社を俯瞰してみることが必要なのです。現場(部長〜課長クラス)は逆に、現場80%、経営意識(コスト意識)20%の感覚で現場運営に当たるべきではないでしょうか?

これからの百貨店経営はヴィジョンと現実の把握、そのギャップを縮める方策、迅速な実行、検証の繰り返しに尽きます。判っていてもできていないのは、判っていないと言えるのです。
経営層自らが自分を律し、率先垂範できるような体制作りが早急に求められています。
社員は上を見て仕事をする事は当然であり、この上を見る習慣はなかなか外せないのです。よって、上を向くのは当然として社員を動かす仕組みを構築する事に目を向けるべきで、その上に、お客様目線を持つ事による行動規範を明確にし、それが評価に反映する評価基準を設定し、その基準をガラス張りにしていく事が必要不可欠であり、経営層自らリードしていく燃える集団作りが今後、望まれています。

是非とも健全なる黒字体制に早急に改革できる事を祈念致します。

2012.05.28
株式会社 オチマーケティングオフィス  生地 雅之

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