株式会社オチマーケティングオフィス 


<64>プライベートブランド

リーマンショック以後、低迷していました景気も昨年秋より、徐々に消費者の買い控えも脇が緩み出してきました。しかし、3月の東日本大震災に一度元に戻りかけましたが、4月以降夏の後半まで、順調に継続していました。
これは消費者の節約モードに飽きがきて、購買意欲が高まっていたのであり、一巡したこの秋以降からはまた、節約モードに戻りつつあります。
この1年間、小売業もアパレルも取り立てて店頭に向けての大掛かりな消費喚起の仕掛けをしていたのではないので、再び不況に陥るのは自明の理なのです。

各企業はコストカット(人員削減、家賃の高い本社の移転や、支店閉鎖、仕入率低減等)により、売上は低迷してもなんとか経常利益を良化させてきているのです。
しかし、それは一部の企業にのみ言える事であり、小売業やアパレルは息も絶え絶えの状態から、逸早く抜け出そうと新規事業(アパレルはSC直営店事業や、海外展開等、百貨店やGMSはPB開発や海外事業等)に目を向け、既存事業の悪化部分を補おうと渾身の力を振り絞っているように見えます。

しかし、本当に方針や施策が妥当と言えるのでしょうか?
本来は既存事業にて店頭売上を維持・向上させて、コストカットした利益を残し、盤石な体制の下に新規事業に手を出すべきではないでしょうか?
そこで今回は小売業のプライベートブランド育成について検証してみます。

1. ブランドとは?
昔、牧場での牛の管理に保有者の名前の焼印を押したところから始まるブランドですが、現在は様々な形に変化し、何でも名前を付ける事がブランドになると見受けられるケースも多発しています。
ブランドには大きく2つに大別され、1つはショップブランドやカンパニーブランドであり、もう1つはグッズブランドなのです。
ショップブランドやカンパニーブランドとは、三越、伊勢丹や大丸、高島屋のような店名や社名であり、ソニーやパナソニック等の企業名を冠としたブランドです。
グッズブランドとはヴィトン、グッチ、バーバリー、ラコステ等の商品に付けられている名前なのです。

過去は百貨店の名前で商品が作られており、高島屋や三越の名前そのままのネームの付いたセーターやシャツが店頭に並んでいたものでしたが、消費者がグッズブランドにはテイスト区分が必要と感じており、多数のテイストを展開する百貨店やGMSでは、お客様を惑わし、購買に結び付かないとの判断で、ほとんど無くなっています。
逆にテイストを絞ったブランドはお客様に判りやすく、無印良品やバーニーズニューヨーク等はお店に行かなくても、ある程度の商品構成が思い浮かぶくらいのブランディングができているのです。また、ユニクロも該当するのですが、多少のテイストが複合されていてもユニクロというショップ名でのくくりでそのズレを消してしまっています。

また、日本と海外ではブランドに対する考え方が異なり、ベンツやリーバイスでは番号での商品管理のみであり、ベンツの中でも乗用車やトラック、スポーツカー等もタイプ別であっても番号管理で、リーバイスも501を始め、シルエットや使用シーンが異なっても番号管理なのですが、日本ではトヨタ名の車から、トヨペットやクラウン、カローラ、またカローラからスプリンター等にサブブランド的に広がり、結果そのサブブランドが独り立ちしていくのです。タバコのセブンスターもセブンスターライト、マイルドセブン等の広がりを見せ、結果としての独り立ちしていっているのです。
要は日本ではお客様をセグメントしたマーケティングにより、個別対応していく事により、消費の変化に対応してきたのです。結果として欧米のような永続的、伝統的なビッグなブランドが育ちにくい環境にもあるのです。

2.グッズブランドの3つのタイプ
グッズブランドは大きく3つに大別され、1つはヴィトン、グッチ、エルメス等のような知名度も抜群でステータス性もあるブランドであり、世の中が変化しようと自分達のコンセプトを忠実に守りぬく姿勢を強固に持ち、展開していくブランド、もう1つは知名度もそこそこあり、世の中が変化したら、立ち位置は変えないで、時代の方向に向く程度の変化を取り入れ、ブランドのコンセプトは変更しないものの、時代性を取り入れた表現をして、リピーターにも満足感を与えながら成長していくブランドであり、もう1つのブランドは記号型ブランドと呼ばれ、ブランド名ではお客様にほとんど認知されていないブランドです。

前述のヴィトン等は、これは偽物ですと表記すれば売上は0円であり、2つ目のブランドであっっても同じ品質の商品を同じ価格で、同じ什器の売場で、同じ販売員が接客して売る努力をしても、ブランド名が無ければ売上は20〜30%に低下してしまうのです。
それくらいブランドステータスを高めておけば、目的買いではなく、何か良いものがあればとの意識での来店が促せるのです。最後のブランドはそのネームを翌日から別のネームに変更してもほとんど売上が変わらないものをいうのです。


要は、如何にブランドエクイティを高めておくかが重要なのです。
このブランディングが出来れば理想なのですが、ブランディングとは打点やホームランのように一度達成すると下がらないで、後は積み上げていくのみではなく、経営と同じ打率なのです。つまり、手を抜いたり、緩めたりすると一気にブランドイメージが悪化し、既存リピータを失うものなのです。新規でそれ以上カバーできれば問題はないのですが、新規顧客獲得は至難の業であり、既存顧客のコアリピータ化の5倍以上のコストとエネルギーが必要なのです。

3.ブランドのセグメントとサブライセンス展開
グッズブランドにおいては、衣食住にまたがるブランドが理想なのですが、1つのブランド名で、便座カバーからファッション衣料品までの展開が妥当なのでしょうか?やはり、必需品と必欲品との区別は必要不可欠なのではないでしょうか?いくら1テイストに纏めているといっても、食器洗剤と同じ名前の服を着飾ってデート等をするものなのでしょうか?この点をどのように捉えるかによって、ブランドの育成方法も変わるものなのです。
無印良品は衣料品こそまともには見えませんが、ショップイメージやインテリア等のテイスト統一感は素晴らしく、ムジラーというファン層まで作り上げているのです。

また、サブランセンス展開に至っては、アプルーバルをしているとは言っても、ほとんどスル―しており、コンセプトやテイストを順守できている企業は皆無に近いのです。
例えば、カルバンクライン(CK)等が自店ショップにはライセンス会社のネクタイは置かないで自社で生産している事や、ポールスチュアート等も同様の事が起きています。
つまり、サブライセンスでは百貨店やGMSの平場に展開するので、多少のターゲットの幅やコンセプトにブレには目をつぶっているのです。
このような環境の中では、本当の意味でのライフスタイル提案型のブランディングはあり得ないのです。

4.ブランド・マーケティングの必要性
要は、顧客のマーケティングに不備があるのです。
徹底した顧客マーケティングにより、自ブランドと自店顧客のニーズのギャップを認識し、ブランドに顧客を合わせるのか、顧客にブランドを合わせるのかの方針を決めて、社内外に徹底したブランドリニューアルか、ブランドに合う売場を構築し直すかを説明し、攻めのブランド戦略を取る事が必要です。
前年実績が最悪の状況であった企業では、最初にブランドヴィジョンありきで、「こう在りたい」と理想を掲げ、その後に現状認識をして、そのギャップに対し、どのルート、方法でそれに向けて進めていくかを決めるべきでしょう。

また、小売業から派生するブランドとアパレル・ファクトリーから派生するブランドがありますが、現在は衣料品ボリュームゾーンとしては、小売業から派生するブランドが成功を収めている場合が多く見受けられるのです。例えばGAP、ZARA、H&M、ユニクロ等であり、衣料雑貨等のラグジュアリーゾーンは逆に、ヴィトン、エルメス等ファクトリー系が多いのです。つまり、ファッション系はトレンドの変化に対応するスピードが速く、コンセプトの維持が難しく、アパレルは割とコンセプトテイストを順守する傾向が強く、小売業は現場に合わせての変化対応が出来ており、コンセプトやテイストを多少逸脱しても売れ筋対応をしてくるからなのです。

その中で、小売業は買取条件をベースに、他社との差別化に向けてのプライベートブランドの育成に目が向いています。しかし、本当にブランディングを意識しての行動なのでしょうか?本来は他社との差別化ではなく、自店のお客様に必要な商品がNBで欠落している場合に別注やPBの生産に入り、結果としてお客様に向き合う商材の開発までを意識した商品群を構築し、結果としてPBをネーミングすべきではないのでしょうか?

まず、経営層にこのブランドをどうしたいのかと言ったヴィジョンが明確でない事が、主たる原因です。経営層はそれ位の事は判っていると思っている人が多いのですが、実行に移せて始めて判っていると言う表現が妥当なのです。
これからのプライベートブランドはブランドヴィジョンと現実の把握、そのギャップを縮める方策、迅速な実行、検証の繰り返しに尽きます。判っていてもできていないのは、判っていないのです。

是非とも健全なるプライベートブランドの育成に向けて舵を切られる事を祈念致します。

2011.12.26
株式会社 オチマーケティングオフィス  生地 雅之

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