株式会社オチマーケティングオフィス 


<49>東京リサーチ情報S 三越銀座店 

9月11(土)にリニューアルオープンしました話題の三越銀座店をリサーチしてきました。
開店に2000人が並び、初日に18万人が来店され、7億円(実質店頭売3.4億円+プレセール2.4億円+その他0.2億円=6憶円との裏情報も)売上を確保し、翌日曜日にも12万人が来店されたと報道があり、三越銀座店長が「高級路線で行く」と明言しながら、銀チャリスペースを確保し、松屋銀座店副店長が「当社は高級路線で行き、三越さんはヤング化・ファミリー強化し、ノンエイジ化していくので影響は無い」とのコメントです。
果たして各店の思惑通りに顧客が流れてくれるのでしょうか?
初日はどこでも同じですが、入店客の10%程度しか購入された紙バッグを持って出てこないのです。三越銀座店も同様です。問題はこれからです。
近視眼的ですが、リサーチにて感じた内容を想いのままに記載してみます。
少々乱暴な点はご容赦願います。

1)B1Fコスメとアクセサリー
コスメをB1Fに展開するといった今迄にない手法を取り、本来の百貨店である婦人雑貨を1F+2Fに戻したのは秀逸ものです。
但し、B1Fのコスメとアクセサリーの間はOPEN初日でもまだ工事中で、1FかB2Fに行かないと反対側に行けないといった未完成のOPENであり、残念です。
しかし、コスメもアクセサリーも売場はとても明るく、見易い構成で、好感が持てます。

2)1F+2F婦人雑貨・ハンドバッグ・靴・ジュエリー
百貨店の編集力に期待がかかる婦人雑貨やハンドバッグ・靴等を伊勢丹の編集力を駆使した完成度の高い売場です。ジュエリーやきものも三越の味を残しての味付けは流石です。

3)3F〜5F婦人服
3Fにはトレンド集積にし、キュートモードランドと称したヤング向けブランドとニューヨークランナウェイの編集を実施しています。トール&ラージも展開。
4Fにはソフィスティケイティッドコレクション、デザイナールームス等の編集も。
5Fにはコンテンポラリーワードローブと称し、ベーシックなラインを構築しています。
新しい構成であり、トレンド、ラグジュアリー、コンサバ別フロアMDの新鮮さは最高です。
ただ、各フロアのエイジセグメント(サイズ区分)が判り難いのが課題でしょう。
現在のファッションのトレンド部分はヤングもミセスも見た目にはあまり変化はありませんが、大きな違いはサイズスペックです。当然、各ブランドはサイズスペックに配慮して、ターゲットエイジのサイズに対応しています。しかし、現状の売場ではその差が明確に分類されていないので、自分のサイズなのかが判り難い状態です。ここを手直しすれば完璧でしょう。

4)6F〜7F紳士服・時計・メガネ
6Fはインターナショナルコレクターズとコンテンポラリーエレガンスの2つに区分されており、伊勢丹メンズ館の銀座版イメージです。
7Fはビジネス&カジュアルラインを編集平場にてゆったりと展開しており、見易くレイアウトされています。
しかし、靴等の壁面の作り方に比べ、中島什器をゴージャスにコストを掛けたものと映ります。
また、両フロアとも暗く、シックではあるのですが、ショッピングするには少し残念な照明です。マウジ―のショップや仙台PARCOのヤングメンズフロア等は意識して暗くしていますが、現在の日本小売業の店頭は明るく、清潔感が不可欠です。
ジェントルマンのシックで格調ある雰囲気でも暗くするのではなく、明るくしておけば現在の顧客にはより買い易いものと思われます。
三越は紳士服と言え、日本百貨店の平均的な代理購買マーケットであり、紳士服と言え80%は女性の来店なのです。(カップルで来店されても決定権は女性)
代理購買を捨てて、男性自らの実需にターゲット変更して、伊勢丹メンズ館の様に大きな変革を求めての挑戦です。
レディスや他のフロアはここまでのチャレンジではなく、既存顧客も対応できる売場構成ですから、630億円の初年度の全館の予算はこのメンズフロアの結果に委ねられているといっても過言ではないでしょう。

5)8Fリビング・催物会場+10Fベビー・子供用品
9Fの銀座テラスを作る上において、止むを得ず子供服を衣料品の紳士服と婦人服から切り放し10Fに設置していますが、10Fこそリビングやギフトサロンに匹敵する場所ではないでしょうか?新設部分の上層階のレストランはシャワー効果で当然ですが、旧館のシャワー効果にも催物会場を設置して、妥当でしょう。よって、子供服とリビングが逆であればベターです。
銀座テラスに来られる団塊ジュニアにとって、上層階のレストランまでは行かずに、このフロアの軽食で済ませる可能性が高く、それならば余計に子供服は8Fの方が良かったのでしょう。

6)9F銀座テラス
一見して何が「銀座テラス」なのか判りませんでした。癒しでもアメニティでもなく、単なるフラットな芝生のみにしか見えません。単に時間のある人が寛ぐ場所として設置されたのでしょうか?西宮ガーデンズのテラスではお昼は団塊ジュニアの主婦層がベビーカーを押してきて、噴水周りで井戸端会議を、夜はカップルが安全なデートスポットとして、有意義なテラスを構成しています。これは阪急百貨店がハーバーランド等でのアメニティスペースの利用方法を熟知しているからに他なりません。残念としか言いようがないのです。手直しを期待するものです。
一部では公道の上を使用するので、アメニティゾーンなどを作らないとの行政指導があったようにも聞こえてきます。要は当初にはアイデアなく、作ってから後付けでコンセプトをでっち上げた可能性も推測されます。

7)11F〜12Fレストラン
流石三越と言える店揃えは最高で、店舗数も適度であり、土日は混雑するものの平日の客数を意識しても経営維持できる店数です。
11Fにはイタリアトスカーナ料理「ガルガ」、和心とんかつ「あんず」、石臼挽き蕎麦「箱根暁庵」江戸前寿司「築地青空三代目」等、12Fには鉄板焼ステーキレストラン「碧」、中國菜「老四川 飄香」、フランス料理「レ ロジェ エギュスキロール」等が並び、1Fにはデンマーク・ザ・ロイヤルカフェ、4Fにはティールーム「ハロッズ・ザプランテーションルームス」等の休憩場所も鏤められています。最高のグルメラインです。

8)B2F〜B3F食品
流石銀座デパ地下といった印象で、三越食品売場の実力です。OPEN日に賑わっていたのは、この食品とレストランのみと言っても過言ではありません。1週間後の平日のお昼も再度入店しましたが、同様の状況でした。

*課題
1.婦人服の新MD区分は素晴らしいがサイズ表現について明確さが必要
2.紳士服の売場の暗さと自主編集売場の代理購買への対応の是非
3.銀座テラスのありよう
4.3F売場の旧館と新館のつなぎ部分の格差(フロア自体が下がっているので不安感を抱く)
これについては「止むを得なかった」とのことで設計ミスなのか判りませんが、これならば段差を付けるか、新館の床を少し高くするかで合わせる方が、違和感無く広い売場で対応できたのではと思われます。現に表参道ヒルズが通路をスロープにしているために、ウィンドウショッピング化しており、店に入るのに段差ができていたり、梅田の大丸と阪神の地下を繋ぐ通路にある店も同様に入りづらいのです。三越銀座店はこのエリアは箱ではないので、少しはましですが、お客様には心理的に買い難い要素を与えていることは否めません。

本来の三越銀座店の顧客ターゲット(コンサバリッチ)をここまで捨てて、新規ターゲット(トレンドリッチ)をどこまで確保でき、グロスを向上できるか?
伊勢丹メンズ館のリニューアル手法で、三越銀座店がどこまでクリアできるかが課題であり、伊勢丹メンズ館の様に初年度は既存顧客の50%を捨て、新規トレンダ―を確保し、2年目には40%を捨て、新規ターゲット顧客を確保し、売上そのものまで伸ばした手法が果たして、コンサバリッチな三越銀座店の顧客に如何に対応できるかが課題です。伊勢丹メンズ館にはそれなりの顧客土壌が熟成していましたが、今回の三越銀座店の顧客にとっては課題です。
既存顧客を失うのは簡単ですが、新ターゲット層をどこまで集客できるかが大きなPOINTになります。

初年度予算を630億円に設定したのは、当初は低めと映り、本来なら700憶円、その後800憶円までは届いて当たり前の立地・環境にあります。リニューアルオープン日の売上が実質6億円なら通常年間売り上げは600億円を推測できるのですが、上記課題を手直しなければ、当初の630億円を大きく割る可能性も秘めています。また、大きく上回るかはこの伊勢丹主導MDを三越メンバーがどこまで意志を持ったコンセプトを理解して腹に据えての継続運営を出来るかに尽きるものと考えます。
今回のリニューアルはまさに三越が伊勢丹になり切れるかのターニングポイントと言えます。

オーバープロダクト、オーバースペースの環境下、これからの日本の消費構造の変化を鑑み、「お客様目線で売場や商品を見て、手直しはプロの技」といった事を徹底しながら差別化する事は至難の業ですが、諦めずにチャレンジしていく事は永遠の課題でしょう。
これからも、特にリピーターを財産として捉え、ストアブランドとグッズブランドの違いを認識され、各ブランドの価値創造による消費者のライフスタイルの確立を目指すビジネスの重要性が増すものと考えます。
これらの実行が、今後の発展に寄与できるものと確信しています。

2010.09.28
株式会社 オチマーケティングオフィス  生地 雅之


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