株式会社オチマーケティングオフィス 


<29>セレクターにならないための百貨店バイヤー論

百貨店の衣料品売上が苦戦しています。「天気、景気、人気の三気」にすべての要因
ある訳でもありません。
売り場における商品提案や展開方法において、売場が誰に何を提案しているのかが、
判り難くなっています。
そこで今回、「セレクターにならないための百貨店の衣料品バイヤーの在り方」について
掘り下げてみます。

百貨店衣料品バイヤーの現状
百貨店の衣料品売り場は、3つに大別されます。
一つはショップであり、ラグジュアリーブランドや、キャラクターブランド等、各ブランドが
把握して提案している今シーズンのファッショントレンドを打ち出しているのであり、
どこの百貨店に行っても同じブランドであれば、同じ表現になっています。
二つ目は、平場のブランド・コーナーであり、各ブランドの提案を表現しながら、
自店顧客にあった品揃えや奥行きを実行しようとしているのです。
最後の一つは単品平場であり、その時の旬な商品をバイヤーの裁量で如何様にも
チョイス・変更可能な売り場の構成です。
バイヤーはマーケットの変化を汲み取りながら、この3つの売り場の構成のバランスを
変更させ、なおかつ次シーズンに適したブランドとそうでないブランドのスクラップ・
アンド・ビルドを推進させていくのです。
その上で、次シーズンのファッション傾向と自店顧客実態との整合性を加味しながら、
商品内容の確認、その後設定予算と投入予定商品の奥行きやバランスをチェックして
いくのです。
しかし、現実は上記のバイヤーの基本を確実にこなしているバイヤーは少なく、
売上減少は商品を仕入れるバイヤーのみの責任でもない部分も多く、小さい権限では
限度を感じている状況と言えます。
逆に言えば、勉強をしていないバイヤーにすべての権限を与えても、失敗した場合の
責任も取れずに他に失敗の要因を求めて、放置しているに過ぎないのです。
現在のバイヤーは右上がり時代のバイヤーと異なり、失敗が出来にくい環境にあります。
右上がり時代のバイヤーは若い時からそこそこの権限を与えられ、失敗も経験の内と
良い意味でも経験を積んできています。
しかし、最近のバイヤー(年齢が上でもキャリアの少ない人も含む)は小さい失敗でも、
企業経営の根幹を揺るがす可能性を秘めており、そう簡単に大きな権限を委譲できない
のです。
結果として、前年踏襲型、前年実績主義になってしまっているのです。
また、百貨店の頻繁な人事異動もバイヤーのキャリアを高められない環境を
作り出しています。これでは、自店の顧客視点に基づいたブランド構成や商品構成なども
できる筈もないのです。

百貨店衣料品バイヤーの理想
現在の百貨店のバイイングを見てみると、バイヤーではありますが、実態は仕入先
からの提案(アパレル展示会やメーカーからの提案)の中から、自店に合うと思われる
ものを選ぶセレクターに過ぎません。
本来は、
1. 海外・国内のファッション傾向の把握
2. 自店の顧客スタンダードの把握
3. 自店の顧客に次シーズン提案すべき「モノ・コト」の検討
4. それに沿った商品をPB開発するか、NB提案よりセレクトしてバイイングする


実は上記2.3が出来ていないケースが多いのです。
自店の顧客の動向は把握していると思い込んでいるバイヤーが多いのですが、それは
結果のみをなぞっている程度なのです。
次シーズンを予測してのバイイングにはなっていないのです。
次シーズンの予測が立てられないので、総花的な仕入れに依存している状態なのです。
つまり、売上の結果データがあっても分析が出来ていないのです。
要は、自店の顧客マーケティングに不備があるのです。
徹底した顧客マーケティングにより、自店顧客のニーズと現在の提案ブランドや商品との
ギャップを認識し、自店顧客に合ったブランドや商品を開発やセレクトしていくのです。
自店の顧客には「こう在って欲しい」と理想を掲げ、その後に現状認識をして、その
ギャップに対し、どのルート、方法でそれに向けて進めていくかを決めるべきでしょう。
また、バイヤー自ら自店で、定価で、自分着用の商品を購入しましょう。
その時に初めて顧客目線が出来るのです。
「顧客視点での課題(売場・商品)発見、プロの目線での改革」が必須です。

自店顧客への次シーズン提案構築
欧米の展示会のファッション傾向の入手も重要です。また、国内のアパレルや
素材メーカー等の企画情報も大事です。
しかし、現在のバイヤーに不足していると思われるのは、そのトレンドの「どの部分を」、
「どのくらい」、「どの時期に」取り込むべきかが重要です。
つまり、自店顧客ニーズを把握していないとそれが出来ないのです。
上記自店顧客スタンダードの把握ができれば、彼らに何を提案すべきかが、
明確になってきます。
その商品をまずPBで埋めるか、NBを中心に置くかは、自社の方針に則って順序を
決めるべきです。
バイヤーはそれを実行に移せて、結果を出して、初めてバイヤーの職務をこなしたと
言う表現が妥当なのです。
このようなバイヤーを育成できる仕組みを構築する事が必要不可欠です。
これからの小売業経営はヴィジョンと現実の把握、そのギャップを縮める方策、
迅速な実行、検証の繰り返しに尽きます。
判っていても売上・利益を落としているのは、判っていないだけでなく、間違っています。
不透明な経済環境の中、トップダウンも重要なポイントですが、現場あっての小売業
です。
今こそ、現場のバイヤーが自らリードしていく燃える集団作りが望まれています。
要は現場最優先主義の徹底が重要なのです。

これからのマーケットの推移を予測しながら、自店の顧客視点によるマーチャン
ダイジングの徹底が、必要な時代に突入しています。

2009.01.27
株式会社 オチマーケティングオフィス  生地 雅之



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